株主の皆様へ(第7回)
『 タウ技研買収を契機にした新たな事業局面について 』
藤原 洋
当社は、インターネット・インフラの発展と共に進化する企業を目指して、これまで、ネットワーク運用技術を中心に事業展開を行ってまいりました。このたび新日本製鐵株式会社殿からタウ技研株式会社の持株を譲り受け、新たな事業局面を迎えることになりましたので、株主の皆様にメッセージをお伝えしたいと思います。
1.新日鉄とタウ技研に学ぶ
新日本製鐵株式会社は、私が人一倍、尊敬の念を抱いてきた企業でした。それは、周知の如く、幕藩体制から近代資本主義国家の建設を担う官営八幡製鉄所を起源とする最も伝統ある企業であり、私事ながら北九州市八幡区で生まれ一歳半まで過ごしたゆかりある土地を本拠地としています。また、エンジニアとして、駆け出しの頃、制御用・産業用コンピュータHIDICの開発業務に関わっていましたが、新日鉄殿は、圧延制御などを中心に最大ユーザーでもありました。24時間無停止の極めて厳しい品質管理のもとに設計されたコンピュータで、仕上げるまでには、多くの苦労を伴いましたが、当時の開発チームは、世界最高の鉄鋼生産技術の一翼を担っているという自負に支えられて短納期での開発業務に挑戦していました。約20年前にこのような経験を経て、今日、新日鉄殿と再び縁に恵まれたことは、実に感慨深いものがあります。タウ技研は、元々技術指向の強い企業でしたが、新日鉄流の洗練された経営管理のもと何年も前に黒字化を果たしました。歴史の浅い当社としては、山田社長をはじめとする新日鉄出身の経営陣から多くのことを学んでいきたいと思っております。
タウ技研は、小篠副社長らによって1977年に設立されたハイテクベンチャー企業としてのパイオニア的存在で、情報機器、家電機器、制御用機器、ネットワーク機器に関わるソフトウェアとハードウェア設計分野で地味な事業を行ってきました。当時は、今日のような直接金融の仕組みがなく、多くの資金的制約がある中で、極めて地道に自社技術を蓄積してきました。同社は、80年代に入ってからは、新日鉄という強きパートナーを得て、エンジニアとしての挑戦意欲と資金の壁という難題を克服した訳ですが、資金の貴重さを身にしみて知っている技術指向の企業です。不況といっても比べものにならない程、恵まれた経営環境にある当社にとって、堅実で力強いハイテクベンチャーの伝統を継承したいと思っております。伝統から生まれた権威には、しがみつくものではないと思いますが、伝統の中に生きつづける失敗と成功から生まれた知恵を、経営に活かしたいと考えております。
2.新技術指向一直線から収益指向へ
常に新しい科学の原理や技術を追い求める好奇心が、私や当社のエンジニアの行動原理であり、これは極めて大切なことだと思っています。しかし、そのような指向は、時として、世界初とか日本初といった技術的成果を産み出すかもしれませんが、最終的に利益にうまく結びつけるのは、実はじっとチャンスを伺っている経営戦略に優れた別の企業であることが多々見受けられます。私が、1980年代後半から90年代の初頭にかけてベル通信研究所の訪問研究員をしていた頃、よくニュージャージー州ウェストオレンジにあるエジソン博物館へ通って数千にのぼる発明品を目の当りにして感心したものですが、最近思うことは、エジソンの最大の発明は、電球でもなく、蓄音機でもなく、GEという企業だということです。
エジソンは、本当に好奇心が強い人だったらしく、考えられないほどの多くの分野にわたって発明をしました。GEという企業は、日本の多くの経営者がウェルチ会長を模範としている側面がある一方、100年以上の時間を経た今日、今もエジソンの好奇心を継承したように極めて多方面の産業分野に興味を示し、企業買収を繰り返すことによって、世界最強の企業グループを作り上げました。
さて、当社も創業後5年目に入り転換期を迎えました。インターネット・インフラの新技術への挑戦と、当社マイノリティ出資の大企業との合弁事業によって、IX(インターネット・エクスチェンジ)やiDC(インターネットデータセンター)を新たに立ち上げると共に、過去4期は小規模ながら黒字経営を行い、公募増資による資金調達を行うことができました。そして、第5期は、収益を産む企業買収、シナジー効果の大きい業務提携のための大規模投資と、新技術に挑戦するブロードバンドインフラ合弁事業準備のための先行投資を行ってきました。特に高収益企業の買収、資本業務提携については、投資消去差額は1年間で一括償却することによって、見掛け上の収益は一時的に赤字となる見込みですが、収益基盤の強化に直結するものと確信しております。新技術への挑戦と収益性を両立できる企業を目指していきたいと思いますので、株主の皆様には引き続きご指導ご鞭撻を賜りたいと存じます。
2001年3月15日
株式会社インターネット総合研究所 代表取締役所長 藤原 洋