株主の皆様へ(第16回)
『 ユビキタス時代を迎えた当社の事業展開の方向性について 』
~ 新たなインターネットの役割を創出するIRIユビキタス研究所 ~
藤原 洋
日本経済の長期低迷からの脱却は、的確な役割分担に基づく産学官連携による、徹底した構造改革しかないと思われます。IRI株主の皆様にあられましては、当社を「時代の要請から創業した、産学官連携によるネットワーク技術革新の担い手」としてご理解頂き、日頃から格別のご支援・ご協力を頂き改めて御礼申し上げます。当社も第7期の終盤を迎え、「創業期」、「先行投資期」、から一転し、当期からの当面の期間を「成長期」として位置づけた事業展開を行っております。今回は、その成長期の初年度にふさわしく始動したIRIユビキタス研究所の活動に焦点を当てて、ユビキタス時代を迎えた当社の事業展開の方向性について述べさせて頂きたいと存じます。
ユビキタスネットワークの時代とは?
ネットワーク技術は、電話、テレビ、およびコンピュータのための相互接続手段として百年以上の歴史をもっていますが、世代交代の歴史を振り返る中で、今日の時代を見てみたいと思います。
第1世代(~1995):『電話回線交換網の時代』
この時代の通信ネットワークビジネスの主体は、「電話と専用線」でした。「いつでも、どこでも、誰とでも」という長年にわたる通信技術者にとっての基本コンセンプトがあり、その結果、先進諸国の中では、肥大化した電話事業を国営、独占にしておくことは、自国の経済発展にとって最大の妨げになるという論調が生まれました。1984年のAT&T分割を発端として、1985年の「民間企業」NTTの誕生、そして、ヨーロッパ先進国の電話事業の民営化が一気に進んだ時期でした。しかし、あくまで、技術の主体は、約100年にわたって変化がなかったといえます。
第2世代(~2000):『ケイタイ+インターネットの時代』
ビジネス主体は、固定電話の回線交換から一気に、「携帯電話とIP接続」に大きくシフトしました。固定電話の代替として、パーソナル電話が欲しいという消費者の欲求によって携帯電話は、爆発的に普及しました。この結果、当社を含めて、ケイタイ+インターネット関連の起業ラッシュとなりました。固定電話の電話交換技術は、前世代百年にわたって君臨しましたが、技術革新の速度は、約5年と急に短くなったといえます。
第3世代(~2005):『モバイル+ブロードバンドの時代』
今日のビジネス主体は、iモードに代表されるモバイル・インターネットとブロードバンド・インターネットになっています。前世代に普及した携帯電話の役割が大きく変化し、様々なコンテンツビジネスを産みだしています。一方、インターネット・インフラの根底をなしていたダイヤルアップユーザーは、昨年9月に初めて減少に転じ、日本は、価格・性能面で世界最大のブロードバンド大国になると思われます。
第4世代(~2010年):『ユビキタス網+通信放送網の時代』
ここからは、未来予測になりますが、ビジネス主体は、「ユビキタス網」に大きく移ると考えられます。ここでいうユビキタス網とは、第2/第3世代移動通信網の次に来るワイヤレスネットワークを含み、人と人だけでなく、むしろ「機器と機器との相互接続にインターネット技術が組み込まれること」を意味しています。また、通信放送網とは、これまで、通信と放送の垣根は、規制によって守られてきましたが、ブロードバンドユーザーが大半になる日、通信でもなく放送でもない通信放送網ができることでしょう。
IRIユビキタス研究所とその使命とは?
当研究所は、このような時代背景の下、ユビキタス時代を先導する組織として、いくつかのユニークなコンセプトで2002年10月1日に設立されました。
第一に、新世代のネットワーク技術を創出するには、一分野の常識にとらわれない広範な知識が要求されるため、メンバーは、研究所長である荻野司取締役(キヤノン(株)中央研究所出身)を中心に、社内の学位取得者、ISP、通信キャリア、メーカー、シンクタンク経験者など様々なネットワーク分野のスペシャリストを集めてスタートしました。いわゆる「ネットワーク分野における多様性集団」なのです。
第二に、先端技術分野では挑戦的な、「プロフィットセンターの研究所」であるということです。これは、研究のための研究ではなく、エコノミーを産むための研究という主旨に基づいており、当社の規模では当然なアプローチであり、しかしまた、如何に当社が成長し、利益を産み出す経営体質が出来たとしても、「世界初の研究成果」以上に「世界初の実用価値創出成果」を追求する組織でありたいという想いが込められています。
第三に、共同研究開発パートナー企業との徹底した「知的財産の共有姿勢」です。当社のスタンスは、自らは製造業でも、通信事業者でもなく、製造業や通信事業者にIP(インターネット・プロトコル)を基本にした様々な技術提供を行うことです。従って、原理的に競合せずにノウハウを出し合える構造であるため、パートナー企業との間では、あらゆる知的財産の共有を前提としています。
第四に、一企業の研究活動に閉じることなく、社会的影響力をもつために、「産学官連携」を重視しております。このため、日本国内だけでなく、欧米、中国、インド等の学術研究機関との共同研究とインターンシップを積極的に推進しています。また、日本政府、自治体からは、産学官連携を前提とした、受託研究を行っております。
松下電工(株)殿との共同研究が産んだIRIユビキタス研究所の最初の成果
以上に述べたような使命をもったIRIユビキタス研究所の最初の成果は、ビル内やホーム内の電気設備管理システムの最大手企業である松下電工(株)殿との共同研究の結果生まれました。今回、共同で進めるのは、松下電工(株)殿が販売を開始する住宅設備のコントロールシステム「エミット・ホームシステム」のIPv6化です。これは、ホームセキュリティや照明、ガス、電気などを、IPネットワークを用いて一括管理するシステムで、松下電工(株)殿がハードウェアの設計を行い、IRIがIPv6に関わる技術を担当します。提携の第一弾として、IPv6に対応した家庭用ゲートウェイ「Home eXchange(HX)」の試作機を公開しました。HXの主な機能は、IPv4/IPv6の「デュアルスタック」、さまざまなプロトコルをTCP/IPに変換する「マルチプロトコル」、接続するだけで利用できるようになる「プラグアンドプレイ」への対応などです。プラグアンドプレイは、操作性を簡素化する手法で、利用者の裾野を広げるための必須の技術で、エミット・ホームシステムでは、極めて重要な役割を果たすことになります。
株主の皆様は、ご多用かとは存じますが、決算説明会および定時株主総会へ是非ご参加頂きますようお願い申し上げます。厳しい経済環境が続いておりますが、皆様のご健康とご健勝を祈念し、本年第二回目のご挨拶とさせて頂きます。
2003年5月12日
株式会社インターネット総合研究所 代表取締役所長 藤原 洋