株主の皆様へ(第19回)
『 歴史的転換点を迎えた当社の新経営体制による今後の事業展開について 』
~ 第7期定時株主総会を終えてのご挨拶 ~
藤原 洋
株主の皆様には、2003年9月18日は、当社にとりまして歴史的転換点となる株主総会を開催させて頂き、無事終了しましたことをご報告申し上げます。当社を取り巻く経営環境の激変の中で、本株主総会におきましては、いくつかの重要な決定事項がありました。今回は、この激変する経営環境と重要決定事項の意味するところ、および新経営体制による今後の事業展開について述べさせて頂きたいと存じます。

第7期定時株主総会

経営近況報告会
1.当社を取り巻く経営環境の激変
昨今のインターネット業界における目まぐるしい変化の源泉の1つは、ブロードバンド利用者の急増によるインターネットビジネス勢力地図の激変があります。インターネットインフラのブロードバンド化により、これまでの勢力地図は、大きく変化しています。結果として、これまでのISP事業の構造変化が起こっており、自らがインフラ設備をもたないISPは、設備投資をしてキャリア化を進めるか、設備を外部委託するかの二者択一を余儀なくされてきております。前者の典型例は、Yahoo!BBとIIJです。後者は、Nifty、Biglobe、So-net、hi-hoのようにキャリア独立の非設備産業化のアプローチです。
このような流れの象徴的なトピックスは、前者のカテゴリーとしては、資金調達力を背景とするビッグビジネスへ向うアプローチの違いにあると思われます。Yahoo!BBは、ポータルサイトとして圧倒的な知名度を背景に、ソフトバンクグループの総力をあげて、ポータル、アクセス網、全国バックボーン、IP電話を一貫して提供するモデルを採用しました。これは、世界に例を見ないユニークな試みでしたが、スタート当初の評価を上回る実績を上げていると思われます。また、IIJグループは、日本におけるインターネット接続事業者の草分けとして約10年にわたって業界を主導してきた技術者集団で、グループ内にIPキャリアであるクロスウェイブの立ち上げに挑戦してきました。結果的には、一旦は、電力系キャリアとの連携を視野に入れることもありましたが、最終的には、最強のNTTグループ入りという道を選択しました。
一方、現在、数百万人規模の会員数を誇るNifty、Biglobe、So-net、hi-ho 等の会員管理型ISPは、コンテンツ提供事業者を集約するコンテンツ・アグリゲータISPとして、今後は、インフラ提供事業者に対する独立したユーザー的立場に立った、コンテンツ指向を強めていくように思えます。
さらに、検索エンジン・ポータルのYahoo!とショッピングモール・ポータルの楽天に代表されるポータルビジネスは、元来インフラとは独立したコンテンツ指向のビジネスモデルです。しかし、最近では、Yahoo!によるオークションやショッピングモールビジネスの強化、楽天によるInfoseek、Lycosの検索エンジンポータルと旅の窓口の買収に見られるように全国民的メディア化が進行しています。
以上に概観したように、インターネットビジネスは、IP(インターネットプロトコル)をコアとする技術革新によって、インフラ提供事業者、コンテンツ提供事業者、およびネットワーク機器メーカーの3つのカテゴリーに集約されてきたといえます。さらにこの3つのカテゴリー化と共に進行しているのがIP技術の深化による固定通信網、モバイル網、およびディジタル放送網の相互流通ビジネス環境への大きな変化が進行していることです。
2.重要決定事項の意味するところ
今回の重要決定事項は、資本政策上の決定と役員改選にあります。
資本政策としては、先に発表済みのリーマン・ブラザーズ・コマーシャル・アジア・リミテッドへの第三者割り当て増資に見られる無借金型のニューマネーの調達による事業規模拡大を行う一方で、資本準備金の減少を決議したことにあります。これは、「準備金の減少」というよりも「累損解消による剰余金の増加」にその狙いがあります。第7期までは、公募増資によって調達した事業資金の先行投資段階であり、初年度約1億円の事業規模を100億円超まで拡大することに注力してまいりましたが、前年度において初期の目的を達成しました。従って、今後は、営業利益、経常利益、当期利益の3つの利益指標を厳重に目標管理した上で、さらなる成長への原資を確保するという条件付ではありますが、配当政策、自社株取得など機動的な株主利益還元措置を行っていく準備に入ったことを意味しております。
役員改選の大きなトピックスは、井上雅博社外取締役(ヤフー株式会社 社長)と大和田廣樹取締役(株式会社ブロードバンドタワー:BBTower)の退任、荻野司取締役の当社CTOとタウ技研株式会社社長就任、および清水英一氏(日本ルーセントテクノロジー株式会社 会長)の新社外役員就任と西野大氏の新任であります。
井上雅博氏は、ヤフー株式会社を世界のYahoo!グループの中でも最強の企業に育て上げた卓越した敏腕経営者です。同氏は、当社設立間もない頃、軌道に乗るまでの経営指導をという約束で、役員就任を許諾されました。約5年間の当社役員就任期間中には、厳しい意見と共に、米グローバルクロッシング社のiDC(インターネットデータセンター)事業撤退に伴う同事業の継続か断念かの瀬戸際で貴重な示唆も頂きました。前年度には、100億円超の事業規模への到達と四半期黒字化、および今年通年度黒字化が視野に入ったということで退任ということになりましたが、引き続き、株式会社ブロードバンドタワーの最大ユーザーとしてご指導頂くことになっております。
大和田廣樹は、共同創業者で、新井佐恵子(現IRI-USA社長)と共に初代常勤取締役です。長期にわたりCOOとして、顧客の信頼獲得に多大なる貢献をしてきました。また、当社の企業アイデンティティともいえるiDC事業の日本の草分け的存在ですが、今後は、当社グループにおいてIPネットワーク事業の中核を担う連結子会社であるBBTowerの専任社長として、株式上場を視野に入れた企業経営に注力することになっております。
荻野司は、キヤノン中央研究所、キヤノングループISPのファストネット株式会社役員を経て、前年当社役員に就任し、ユビキタス研究所長を務めております。今回、当社グループにおけるIPプラットフォーム事業の中核を担う連結子会社タウ技研株式会社の社長に就任しました。同氏のこれまでの機器メーカーでの経験とユビキタス研究所の立場を活かし、従来築き上げてきた「着実な企業」としてだけではなく株式上場を視野に入れた「成長する企業」へと飛躍する企業経営に注力することになっております。
清水英一氏には、NTT幹部としての通信業界における豊富な経験と、日本AT&Tおよび分割後の日本ルーセントテクノロジーにおける国際企業経営トップの経験を活かし、ノーベル賞受賞者11名を輩出したベル研究所との提携を視野に入れた経営指導を頂くことになっております。
西野大は、物理系博士課程からISPへ転じた独立系ISPの技術者の経験から、当社創業に加わり、日本初の商用IX(インターネットエクスチェンジ)である日本インターネットエクスチェンジ株式会社(JPIX)のチーフエンジニアとして立ち上げの中心的役割を果たしてきた生え抜きの若手新役員です。今後は、当社のコア事業の1つであるISP業界に中立的な次世代IX技術の開発に注力することになっております。
このように今回の役員の交代は、当社が小規模ながら創業当初からインターネット業界における中心的役割を担う中で、最も記念すべき歴史的転換点にあることをご理解頂ければ幸いでございます。
3.新経営体制による今後の事業展開
前述のようにインフラ提供事業者、コンテンツ提供事業者、およびネットワーク機器メーカーの3つのカテゴリー集約と、固定通信網、モバイル網、およびディジタル放送網の相互流通ビジネス環境への大きな変化が進行する中で、当社は、この変化に適応可能な新経営体制で臨んでまいりたいと存じます。
具体的には、当社グループの3つのカテゴリー顧客への中立性を基本とした、総合力を発揮する『ニュートラル・ネットソーシング事業』の展開であります。第一は、当社によるIPネットワーク運用技術を基に、インフラ提供事業者とその利用企業ユーザーに対する「ネットワーク構築・運用支援事業」であり、新技術による新サービスのためのネットワーク設計の受託、コンサルティング、および受託運用を行います。第二は、コンテンツ提供事業者に対する「Webサーバの運用支援事業」で、本事業は、主としてBBTowerが担当します。第三は、ネットワーク機器メーカーへの「組み込み型ソリューション提供事業」で主として、タウ技研とユビキタス研究所が担当します。また、第四の事業ドメインが、固定・モバイル・ディジタル放送ネットワークの相互流通技術の必要性から生まれた全く新しい中立的ビジネスモデルです。具体的には、3つのインフラと個々のインフラ別に提供されてきたコンテンツを相互運用するための「トラフィック交換事業」で、主として株式会社ブロードバンドエクスチェンジ(BBX)が担当します。
以上に述べたように、当社グループは、インターネット接続、通信インフラ、放送インフラ、および機器開発分野における豊富な技術開発と営業開拓の経験を有する新経営体制を整備しました。この新経営陣によってインターネット業界におけるユニークな中立的非設備産業型のビジネスモデルを構築し、様々な技術支援サービスを提供してまいりたいと存じます。
2003年9月18日
株式会社インターネット総合研究所 代表取締役所長 藤原 洋