株主の皆様へ(第31回)
『 技術者派遣の雄へと飛躍するパソナテックと株式売却について 』
~ パソナテックへの資本参加の経緯と今回の株式売却方針の背景 ~
藤原 洋
株主の皆様にあられましては、目まぐるしく変化する当社の経営環境とこれに伴う経営判断に対して格別のご支援を賜り誠に有難うございます。当社は、一貫して21世紀の技術革新を担うインターネット・テクノロジー企業として活動しておりますが、今回は、当社上場後のパソナテックとの資本業務提携と同社株式の全数売却を決断した背景について述べさせて頂きたいと存じます。
1.2000年時点でのパソナテック資本参加の理由
当社の株式上場当時の事業主体は、創業以来、「インターネット技術に関わる技術支援事業」でした。特に、iDC(インターネットデータセンター)事業者や通信キャリアへの技術支援を中心に、いわゆる「付加価値労働力の提供」に注力してまいりました。具体的には、ルータとサーバの大容量トラフィックを制御する技能を有する希少のトップエンジニアが当社の稼ぎ手となる活動を行ってきました。そこで、このような技術支援事業をスケールさせるために、トップエンジニアをリーダーにサポートエンジニアをメンバーとするチームを構成し、技術支援事業のボリュームを拡大する戦略をとってまいりました。パソナテックへの資本参加の目的は、この技術労働力、すなわちサポートエンジニアを安定的に確保することでした。この資本業務提携によって、当社は、当時の米国系企業グローバルセンタージャパン(現ブロードバンドタワー)殿、NTTドコモ殿、JPIX殿などへの事業を拡大してまいりました。
2.第三次産業革命「IT革命」下における両社の成長
IRIとパソナテックとの資本業務提携の背景にはIT革命がありました。IT革命は、今もなお、産業構造の変革を促し、社会の仕組みそのものを変化させる原動力となっています。この新産業革命は、主に3つのインフラ(「金融」・「通信」・「人材」)における構造変化をもたらしました。「金融インフラ」は、企業活動の根源となるもので、極めて重要ですが、両社の成長にとって、新興株式市場の開始に伴う、間接金融から直接金融への移行は、大きな追い風となりました。「通信インフラ」の技術革新を担うのは、IP(インターネットプロトコル)技術であり、IPは通信インフラの革新を突破口にあらゆる産業への波及がまだ始まったばかりだと思われます。当社は、この分野に特化した新興企業として位置づけられるものです。「人材インフラ」の変化は、終身雇用制の終焉とこれに伴う正社員率の低下が加速する中で、まだ始まったばかりの人材供給産業の台頭に集約されます。この中心を担う企業が、一般職派遣業の(株)パソナであり、その戦略的子会社が技術者派遣業の(株)パソナテックです。私の試算では、現在、まだ技術者派遣産業は、先進国のアメリカと比べて、50分の1程度の市場ですが、GDP規模からいって日本における技術者派遣産業の成長力は、相当なものであると思われます。
3.成長フェーズの変化に伴うIRIのビジネスモデルの転換とパソナテック上場
当社は、新興市場への上場による約100億円の公募増資によって、2000年~2003年度にかけてIPネットワーク事業とIPプラットフォーム事業の先行投資を行ってまいりました。この結果、顧客であったiDC事業者であるグローバルセンタージャパン(株)を子会社化し(株)ブロードバンドタワーに名称変更しました。ブロードバンドトラフィック交換サービスを行う(株)ブロードバンドエクスチェンジを合弁事業として立ち上げ後、子会社化しました。また、高度NI(ネットワークインテグレーション)事業の立ち上げと平成電電からVAS(バーチャルアクセスサービス)事業を買収し、IPネットワーク事業の集大成として(株)IRIコミュニケーションズを始動させました。一方では、IPプラットフォーム事業として、来るべきユビキタス社会を見越してタウ技研(株)を買収し、ディジタル家電産業を担うユビキタスシステム部品メーカーとして新たな成長フェーズを迎えました。
この結果、IRIグループは、株式上場後の先行投資の結果、IP技術をコアとした「付加価値労働力の提供」から「付加価値サービス・製品の提供」へとビジネスモデルの転換を行いました。換言すると、「技術支援事業者から技術主体事業者への自己変革を遂げたわけであります。
4.IRIとパソナテックの今後の展望
当社が投資会社であると仮定すれば、急成長市場「人材インフラ産業」の中核を担うパソナテックの株式については、間違いなく長期保有すべきことは言うまでもありません。しかしながら、当社は、IP技術をコアにした事業会社である性格上、以下のことを背景にパソナテック株の全数売却を決断致しました。
(1) | IRIのビジネスモデルが変化し、「付加価値サービス・製品の提供」を行う事業主体となったため、パソナテックとのパートナーシップによる技術支援事業から、パソナテックの純粋顧客としての位置づけへと変化したこと |
(2) | パソナテックは、ビジネスモデルが明確で、上場とほぼ同時に経常利益を自立増殖可能な成長フェーズに入ったこと |
さて、パソナテックは、既に直近の2004年3月期決算に見られるように、新興上場企業としては、稀有の存在で、機関投資家の投資対象としての地位を確立しました。当社においても、上場前からの大株主の中には、既に大半の株式を売却されたパートナー企業株主もおられ、これまで様々な折衝を行ってまいりました。このような経験から、私は、企業経営者として、パートナー企業の株式売却については、当社の事情だけでなく、パートナー企業の経営環境、株式市場環境を考慮し、総合的に判断すべきものと考えてまいりました。そして、上場後の理想的なスタイルは、パートナー企業株主から機関投資家への移行を行う中で、個人投資家とさらなる機関投資家の参入だと考えております。このように、できるだけ多くの方々に株主になって頂く環境作りに尽力し、さらなる成長によって企業価値の増大を達成することが、使命であると思っております。
以上に述べたように、当社は、研究開発型企業の性格上先行投資期間が必要なため、上場後4年で、また、パソナテックは、上場と同時に、経常利益の自己増殖フェーズに入ったと考えております。「通信インフラの革新」を担う当社と「人材インフラの革新」を担うパソナテックは、今後共、良好な関係を維持・発展させ、パートナー企業株主としてではなく、個人・機関両方の投資家の方々に期待される企業へと発展していく所存であります。
2004年5月20日
株式会社インターネット総合研究所 代表取締役所長 藤原 洋