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所長コラム

株主の皆様へ(第39回)

『 ニューヨーク出張レポート 』
~ ルドルフ・ジュリアーニ氏と米国機関投資家へのIR活動 ~

藤原 洋

 2004年12月3日午前9時、実に4年ぶりに初冬のJFK空港に降り立ちました。当社グループは、技術系企業であることから、米国出張の大半は、シリコンバレー等地方都市だったのですが、今回は、これまでとは、全く異なる目的の米国(ニューヨーク)出張となりました。その目的の第一は、ルドルフ・ジュリアーニ氏からの面談要請への対応であり、第二は、上場来初となった第一四半期黒字決算後の米国機関投資家からの個別IR要請への対応であります。そこで、今回は、株主の皆様に対して、米国の政治経済の希少なリーダーであるジュリアーニ氏との意見交換と米国機関投資家との5回にわたる個別IR活動の概要についてご報告させて頂きます。

1.ルドルフ・ジュリアーニ氏との意見交換

 ジュリアーニ・パートナーズ/セイジ・キャピタル・グロースとの資本業務提携に基づき、今回第三位の安定株主となることを前提に45億円のCB発行と、100億円の投資ファンドから始まる『IPシナジーファイナンスTM』事業が12月1日からスタートしました。今年は、株主の皆様からの確固とした投資信念に基づくご支援の結果、上場後5年を経て持分法適用関連会社の上場や先行投資を行ってきたグループ各社の黒字化が定着し、創業8年で約200倍の連結事業規模(初年度は約1億円でした)となる記念すべき年となりました。しかし、株主の皆様からの更なる成長期待に応えるには、国内ビジネスを固めると共に、次なる成長の一手として、ビジネスの国際化が必須であることを感じてきました。このような背景から、ニューヨークを本拠地する世界最先端のファイナンスビジネスグループであるジュリアーニ・パートナーズ/セイジ・キャピタル・グロースとの半年にわたる共同作業の結果、『IPシナジーファイナンスTM』事業を創出することができました。

 ルドルフ・ジュリアーニ氏率いる同グループは、現在約130名を擁する強力な国際調査網を持つ頭脳集団で、国際的な政策・経営コンサルティング、直接投資業務、および投資銀行業務を行っています。ジュリアーニ氏によると、投資対象としては4つほどの個々の視点があり、第一に技術に対する投資、第二にインターネット関連分野、第三に成長分野、第四に情報だけでなく広義のセキュリティ分野(安全確保)分野とのことでした。 このような背景説明の後、ジュリアーニ氏から「IRIは、日本のインターネット技術のパイオニア企業であり、日本のパートナーとしてIRIのテクノロジーを最も信頼している。このためIRIへ投資し、共同で投資ファンドを設立したのだ。」と言ってくれた時は、本当に嬉しく思いました。というのは、真の企業価値は、簡単に真似の出来ない技術を自分たちの手で創り出し、他の技術と融合させて、改良を重ねることで開発を繰り返し、結果として社会資本へと育てることだと思ってきたからです。私は、更にジュリアーニ氏に対して、技術を創る側と使う側では、ビジネスモデルと事業化に要する時間が全く異なり、我々は、技術を創る会社だということを強調しました。そのことは、十分調べて良く知っているとの反応でした。短期的に立ち上がる高収益ビジネスに投資家の関心が集まりがちですが、ジュリアーニ氏の視点は、全く違っていました。ブランドをお金で買うことで、短期的な利益を得ることよりも、ブランド価値を自らの技術で作り創造する経営に興味を持っておられるという印象を受けました。しかし、それは、利益に関心が薄いということではなく、真に利益を産む事業に王道なし、という信念に基づくものだと思いました。かつてのニューヨーク市政と今日の企業経営については、パブリックな組織運営は、上場企業の経営と等価であるという独自の政治・経営哲学に基づき、透明性と説明責任の重要性を強調されていました。

 以上のようにミーティングは、極めて友好的に進みました。話を進める中で、ジュリアーニ氏に共感する重要なことが一点ありました。これは、組織運営に関することですが、前回のコラムにも少し触れた通り、強力なリーダーシップがあるという点です。リーダーシップは、「支配よりも共感」を、また、「世襲よりも育成」を意味します。あの凄まじい2001年9.11テロからの復興と対策を一手に引き受ける中で、ジュリアーニ氏は、危機管理システムの重要性を説き続け、米国連邦政府は、2年前にHomeland Security省を設置し、年間7B$(約7000億円)の政府予算をつけるまでになりました。ジュリアーニ氏のチームには、財務や政治での豊富な経験を有する人々を中心に、我々の世話をしてくれたハーバード大学を卒業したばかりという修行中の若者もいるように、とにかく優秀で、人が育つ環境があるという強い印象を受けました。
 最後に、素晴らしいジュリアーニ氏からのメッセージを頂きました。「日米は、政治でも産業でも最高のパートナーであり友人です。IRIが2月に開催するシンポジウムでは、基調講演を引き受けます。・・・」。

2.米国機関投資家とのIRミーティングの概要

 今回は、大和証券殿のご配慮によるIRを行いました。多くのリクエストがあったようですが、ジュリアーニ氏との会合を含めて2日間という強行日程の関係上、それでも5件のIRミーティングを行うことができました。
 私にとって、米国機関投資家向けIRは、2000年以来実に4年ぶりになりますが、包括的な印象は、日本株売り一色の失われた1990年代のトンネルを本当に抜けたというものでした。今回は、どの投資家からも、「2000年当時からIRIは知っている、でも当時の米国から日本に波及したネットバブルの中で、正直、ネット株は何でも買え、そして、次に何でも売れ、という時期を過ごしてきたので、中身を良く吟味していなかった。今回の機会を持ててIRIという企業グループ、そして、IRIが取引や共同事業などで殆ど全ての有力IT関連企業と関わっていることから、他のIT関連企業の動向や日本のIT産業全般を理解する上でとても有意義だった」という反応でした。今回は、中規模・大規模の機関投資家のファンドマネジャーとアナリストの方々とのミーティングでしたが、このクラスになると必ず日本株担当部門が設置されており、小規模なものでも約500億円、平均では恐らく数千億円規模の日本株担当部門が常時活動していることが印象的でした。この日本株特にIT関連株への投資は、決して一過性のものではなく、じっくりと腰をすえたものだと思いました。

 さて、個別IR活動の概要ですが、米国機関投資家は、共通して、IRIのビジネスモデルを正確に知りたいということでした。当社グループは、IP技術という共通点があるが、顧客ドメイン別に担当企業を割り当てており、ビジネスモデルは、個々に異なるために、個別に説明する必要があるという回答をしました。これに対して、それは、ビジネスモデルが、複雑で、個々に子会社まで分析するのは、大変だという反応でしたが、ビジネスモデルが、単純で、単一なのは、分かり易いかもしれないが、技術革新など経営環境の変化にはいくつかのビジネスの柱があることが有利であり、環境変化にも強いという視点からの経営ビジョンを披露したところ納得して頂きました。具体的には、最初に立ち上げた第一の柱は、(株)ブロードバンドタワーが提供する、ヤフー等コンテンツプロバイダーを顧客とした、インターネット・データセンター事業で、米国と異なり、日本のブロードバンド環境ではユーザーの利用帯域が米国の約10倍に達しておりヤフーでは10億ページビューを超えるアクセスがあり、年成長率50%以上でブレークイーブン到達後の利益成長率の高いビジネスであることを理解して頂きました。第二の柱は、デジタル家電や産業用電子機器メーカーを顧客とする、(株)IRIユビテックによるユビキタスプラットフォーム事業で、コアとなるシステム部品を提供しており、売上よりも利益成長性を重視した展開を行っていることを理解して頂きました。第三の柱は、(株)IRIコミュニケーションズによる、通信事業者・ISP・一般企業IT部門を顧客として、特徴あるAdNI(アドバンスト・ネットワークインテグレーション)、VAS(ISP向けダイヤルアップローミング)、BEX(主としてCATVなどブロードバンドISP向けインターネット上位接続)、およびMSP(ネットワークの運用保守受託)を行う事業で顧客数拡大にAdNIが、また利益率拡大に他の事業が貢献する構造を理解して頂きました。そして、その他の連結子会社による第四、第五の柱が準備中であることに大変興味を持って頂きました。
 ある機関投資家のファンドマネージャーおよびアナリストの方々は、中長期的な成長性を判断したいので、企業理念や戦略を知りたいということでした。IPによる非IT分野への展開戦略を披露し興味を持って頂きました。また、売上と利益成長率の目安を知りたいという質問も多くありました。これに対しては、事業によって、顧客ドメインやビジネスモデルが異なるため、一律に回答できないが、包括的には、全く新しい事業の育成については、黒字化までに要する期間を約3年、黒字化直後の年売上成長率を年50%程度、年利益成長率100%を目標とした計画を立てているという回答をし、理解して頂きました。その他、米国機関投資家の共通した興味は、携帯電話事業および移動体通信事業への新規参入の見通しに関するものでした。IRIグループが、中立的に殆ど全ての既存通信事業者および新興通信事業者にIP技術を提供しており、政府の審議会専門委員などを務めていることを知っているために是非聞かせて欲しいというものでした。ソフトバンクグループの参入が鍵を握っており、800MHz帯と1.7GHz帯の許認可については、性格の異なるものであることを伝えました。これに対して、米機関投資家は、概ね、ソフトバンクグループの参入による市場構造の変化を期待しているという印象を受けました。また、多くのITベンチャーが、プロ野球球団の買収や設立に動いている背景の質問があり、私見として、時代と共に変化するメディア産業の隆盛で、新聞社、鉄道、そして、インターネットへと移っていること、ヤフーや楽天などのサービス系企業は、Eコマースという側面だけでなくメディア価値が競争のポイントになっていくだろうという見解を述べました。

 以上に述べたように、米国機関投資家へのIR活動は、語学力、国際会計基準への対応、国際市場への理解など、新興企業にとっては、大企業と異なり組織的対応は、なかなか困難ですが、極めて重要な活動だと感じました。当社グループは、幸いにして、大企業における国際ビジネスの経験者も多く、今回もIR資料の作成や証券会社を通じたアレンジなども比較的短期間に行うことができました。連結黒字基調が達成され、利益成長軌道に乗りつつある今日この頃ですが、ビジネスの国際化と共に、外国人投資家へのIR活動を今後共強化していきたいと考えております。

本日は8回目の創業記念日ですが、グループ企業の黒字化基調の中での今回のニューヨーク出張は、非常に有意義なものでした。特に、新株主として、世界の政治経済のリーダーである、ルドルフ・ジュリアーニ氏との長時間にわたる面談から真のリーダーシップのあり方、企業の進むべき方向性について多くの示唆を頂きました。また、上場後5年を経た成長過程を米国機関投資家へのIR活動は、今後の経営方針の策定にとってこの上ない経験となりました。このように、まだ始まったばかりですが、国際展開ができるまで、私共の企業活動を支えて頂いた株主の皆様に改めて御礼申し上げます。

2004年12月9日
株式会社インターネット総合研究所 代表取締役所長 藤原 洋

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