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所長コラム

株主の皆様へ(第49回)

『 BBTowerの上場承認のご報告 』
~存亡の危機の中、企業アイデンティティを守った最初の大型事業~ 

藤原 洋

 恵みの雨降る梅雨空の下、6月30日夕刻、株主の皆様に心待ちにして頂いた、当社子会社の株式会社ブロードバンドタワー(以下、BBTower)のヘラクレス市場での上場承認が、大阪証券取引所から正式発表されたことをご報告させて頂きます。BBTowerは、1998年から準備してきた当社最初の大型事業であるインターネット・データセンター(iDC)事業を担う当社グループの中核企業です。そして今回の上場承認が、iDC事業を基本としつつ、iDC事業で築き上げた世界最大規模の大容量情報発信基盤上に世界初のビジネスモデルとしての、ブロードバンド・コンテンツ配信事業へと発展し、さらなる成長へ向う新たな段階を迎えたことを、株主の皆様と共に素直に喜びたいと思います。振り返りますと、BBTowerの事業がここまで発展するまでには、幾多の困難と感動のドラマがありました。今回は、困難に直面しつつも、これまでご支援頂いてきた株主の皆様への感謝の意と、信念と情熱をもってこれを乗り越えてきた仲間たちに敬意を表させて頂くと共に、ここに至るまでの同事業の歴史と今後の展望について述べさせて頂きます。

1.米国企業との合弁事業から始めたIRI最初の大型事業

 日本初の商用IX(インターネット・エクスチェンジ:複数のISP間のトラフィック交換拠点)であるJPIXの立ち上げが完了した、1998年初頭、当社は、将来インターネットが接続の時代からコンテンツ流通の時代へ移行することを予見し、iDC事業の検討に入りました。その後直ちに、設立後1年半でのスピード上場を遂げ、急成長を始めたヤフー株式会社と世界的な研究開発型企業キヤノン株式会社からの資本参加を仰ぎました。当時、日本国内には、本格的なiDCが存在せず、ヤフーに代表されるコンテンツ提供事業者は、ISP(インターネット・サービス・プロバイダー)にWebサーバを預けて運用を委託していた時代でした。
 1998年夏、当社としては、業界最大手の米エクソダスコミュニケーションズ社にコンタクトし、JPIXを立ち上げた技術力と強力な法人株主を持つ信頼性が評価され、同社との合弁事業としてエクソダス・ジャパン設立構想(エクソダス90%、当社10%)をもって日本初のiDC事業会社の設立準備を開始しました。しかし、約1年にわたる準備完了間際の1999年夏、ヤフーの親会社であるソフトバンクの孫正義社長から、エクソダス社よりもIRIを尊重した条件で米アジアグローバルクロッシング社(AGC:米グローバルクロッシング社、米マイクロソフト社、ソフトバンクの合弁会社)との合弁事業の提案があり、当社は大いに悩んだ結果、業界最大手エクソダスとの合弁事業を断念し、孫氏からの提案を受け入れることとしました。この合弁会社への出資と合弁会社からの運用受託事業を行うために当社の上場を1999年12月に行ったのでした。上場時の目論見書には、iDCを中心に様々な事業を展開していくことが記されており、日本初の本格的iDC事業へ挑戦することが当社のアイデンティティとして位置づけられました。
 こうして、2000年2月、エクソダスジャパン構想の10%よりも1%出資比率を高めた11%を当社が出資し、AGC社が89%出資したグローバルセンター・ジャパン株式会社(GCTR)が設立されたのでした。米グローバルクロッシング社は、当時傘下にインターネットデータセンター(iDC)の元祖である米グローバルセンター社(1995年設立)を持っていたために、グローバルセンター・ジャパンと名づけられ、世界初の米国型iDCのノウハウを習得しつつ当社の誇るトラフィック制御技術との融合を図り、いかなる集中的なアクセスやアタックに対しても頑強なiDC技術基盤の整備を行いました。米国企業の資本が89%とはいえ、大規模な初期投資を行い、損益分岐点は、遥か彼方で、赤字が蓄積する中でも当社のスタッフは妥協することなく、コツコツとネットワークの構築と顧客獲得を積み上げていきました。この姿勢が評価され、ソフトバンク株式会社も38%の株主になり、豊富な資金力を有するIPキャリアとして急成長するNASDAQ上場企業のAGC社とヤフー親会社のソフトバンクというパートナーを得て、次なる資本増強を準備することとなりました。

2.GCTR存亡の危機からBBTowerへ

 資金力のあるパートナー企業を得て、次なる成長機会を探っているさなかに、当社に衝撃的なニュースが飛び込んできました。米エクソダス社が、米グローバルクッロシング社から、米グローバルセンター社を買収したというものでした。合弁事業相手の米国法人が、日本での合弁事業を断った相手のエクソダス傘下に入るということは、当社のiDC事業の将来に暗雲が漂い始めたことを意味していました。赤字ではありましたが、当社との信頼関係を通じ応援してくれた顧客と折角立ち上げた安定的なネットワークを誇るGCTRが、最大最強のライバル企業エクソダス社のものになってしまうという危機に直面したのでした。しかし、万事休すかと思われた数ヵ月後、なんとアメリカでドットコムバブルの崩壊が起こり、飛ぶ鳥を落とす勢いのあのエクソダス社が倒産してしまったのでした。こうして、最初の危機は去って行きました。
 次に訪れた危機が、米アジアグローバルクロッシング社のiDC事業からの撤退でした。この結果、2001年12月に大きな岐路に立たされました。パートナーのソフトバンクは、さらに設備投資の必要なヤフーBBの通信事業に集中するという事情がある中で、当社が、事業継承しなければ、GCTRは、クローズされる。当社の資金力で月2億円の赤字を出していた事業を継承できるのか?それともリスクヘッジをして撤退するのか?経営陣でも意見が分かれました。また、当時は、最大手のエクソダス社やワールドコム社等のIPキャリアの経営破綻が相次ぎ、米国生まれのiDC事業は、困難な事業であるという評価がなされた時期でもありました。何度も内部で議論を重ね、意見がまとまらないまま、2001年12月末、私から役員会に緊急動議を提出することとしました。当然、この困難で高度な経営判断は、社内外の各役員に委ねられ、賛否が分かれましたが、当時多くの担当業務をこなしていた大和田廣樹取締役(現BBTower社長)の同事業への専任化と経営へのコミットメントがその場で得られたのでした。この時の感動を今もはっきりと思い出します。また、AGC社からの出向の優秀な経営・財務スタッフと共に、当社から出向のトップエンジニアたちが創ってきたGCTRは、IRIにとってのアイデンティティそのものでした。アイデンティティを失って小さなコンサルティング会社に戻るのか、それとも勝負に出るのか、どちらが株主価値の増大につながるのかの岐路でした。筋書きのないドラマとなった取締役会での議論の結果、多数決となり、決定されたのは、GCTRの子会社化の道でした。この結果、2002年4月、減増資により累損解消と共に、当社は出資比率を60%以上に高め、株式会社ブロードバンドタワーへと商号変更しました。この“ブロードバンドタワー(TM)”という社名は、来るべきブロードバンド時代のコンテンツ配信拠点にするという想い(ブロードバンド上の東京タワーの役割を担う)を込めて命名いたしました。
 当時のブロードバンド加入世帯数は、数百万に留まっていましたが、BBTowerの始動直後はIRIからの追加融資などが必要な局面が続きましたが、孫正義氏が勝負を賭けた超低価格Yahoo!BBのサービス開始の影響が現れ始め、全通信事業者が大幅な値下げを行ったためにブロードバンドユーザー急増という追い風が吹き始めました。また、ヤフー株式会社が増殖するWebサーバを預けていた米国ISPの日本法人の撤退が相次ぎ、移転先を探すタイミングに合致したため、BBTowerは、ヤフー株式会社のメインiDCとしての役割を担うこととなったのでした。私の拙い経験からは、「危機とチャンスは、同時にやって来る」ように思いますが、どちらか片方しか見ないのではなく両方が適切に見える組織・人材の必要性を再認識した一連の出来事の集まりが、BBTower誕生の背景にありました。

 この頃から、ブロードバンドとモバイルは、ネットワーク環境を一新し始めました。20世紀末まで、ITビジネスは全て、米国生まれ米国育ちでした。すなわち技術も市場も米国をフォローしていれば良かったわけですが、21世紀になって、ブロードバンドとモバイルの市場性に関して、日本の高人口密度が圧倒的な高設備投資効率に寄与したために、高速では短距離伝送しかできないADSLを牽引車とするブロードバンドの普及は、インターネット利用者の2/3に達するまでになりました。このため、日本では、BBTower始動と共に、ブロードバンド化が2002年末頃から加速し、利用者一人当たりの利用帯域(伝送速度)は、米国よりも1桁以上大きくなるまでになりました。BBTowerは、岐路からの決断から間もなく4年を迎えますが、まさにブロードバンド市場爆発前夜の新たな旅立ちでした。その後のブロードバンド化の進展は、BBTowerの顧客であるポータル事業者、ネット証券事業者などのページビューを加速し、結果として、Webサーバの増設を加速しており、BBTowerの基本事業であるiDC事業の成長と後述のブロードバンド配信事業の始動によって強固な経営基盤と成長性ある上場企業にふさわしい企業へと成長することができました。これもひとえにIRIの株主の皆様のご支援の賜物であると改めて感謝申し上げます。
 BBTowerの業績の推移を要約しますと、損益分岐点到達(2003年秋)、年次黒字化(2004年6月期)、利益幅拡大(2005年6月期)を実現することとなりました。昨日の6月30日にBBTowerから発表された決算見通しは、売上48.53億円(前年比161.4%)、経常利益5.93億円(236.2%)、当期利益6.09億円(200.9%)となりましたが、これは当初計画を大きく上回るものとなりました。

 去る6月14日に上場したユビキタス時代を担うIRIユビテックと共に、BBTowerは、ディジタルコンテンツ時代を担うテクノロジー企業であり、当社グループの連結業績を支える重要なグループ企業です。また、BBTowerは、8月3日上場予定でありますので、当社、IRIユビテックと共に、今後共変わらぬご支援をお願いして、BBTower上場承認のご報告を終わらせて頂きます。

※本日より、ヤフーとBBTower共同企画・NHKエンタープライズ制作のインターネットの夜明け後編が配信されていますのでご覧頂ければ幸いです。
http://yoake.yahoo.co.jp/part2/

2005年7月1日
株式会社インターネット総合研究所 代表取締役所長 藤原 洋

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