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所長コラム

株主の皆様へ(第50回)

動き始めたポストモバイル3G事業
~YOZANとIRIグループの資本業務提携の意味するもの~

藤原 洋

 当社は、去る2005年7月15日に、当社の事業規模と質的拡大を目指すTOBによるグループ事業規模の拡大について発表をさせて頂きましたが、TOB期間が終了するまでは、しばらくは、動向を静観して頂きたくお願い申し上げます。

さて、今回は、当社グループがインターネット・テクノロジー・カンパニーとして取り組むべき3つの課題、すなわち、ポスト3Gモバイル、ポストブロードバンドおよびポスト放送の中で、ポスト3Gモバイルに関する当社グループの具体的取り組みと今後の展望について述べさせて頂きます。先日発売された「週刊東洋経済」の7月23日号46-47ページに小論文を投稿させて頂きましたが、携帯電話を中心とする移動通信市場は、普及が開始された1995年から約10年間で、約8兆円の巨大市場となり、携帯電話3社を中心とした寡占市場を形成してきました。しかし、ここへ来て、この市場構造を一変する可能性のある技術が登場してきたことが今回の具体的なIRIグループのアクションの背景にあります。また、私自身ベンチャー企業経営の傍ら、長年にわたって(財)インターネット協会の仕事に関わってきましたが、その中に年中行事としてインターネット白書(インプレス刊)の発行があります。今年は、特にトピックス満載のインターネット白書2005の統計を元に、2000年に開始された、現在の最先端商用サービスである3G(第三世代)の次に来るテクノロジーとサービスについて展望したいと存じます。

1.モバイルの本質とこれまでの発展経緯

 「モバイル」(移動式の)という言葉には、2つの要素が入っています。すなわち、第1は携帯電話としての要素であり、第2は移動式インターネットアクセスとしての要素でです。このモバイルを約10年の間に通信事業の主役に変えたのは、「ディジタル化」という技術革新がその本質にあります。従来のアナログ方式の携帯電話(1G)では、困難であった2つ要因がディジタル化によって可能となりました。一つ目は電波帯域の効率的利用です。ディジタル化によって音声情報圧縮(情報量を削減する信号処理技術の適用)が可能となり、有限な電波資源を用いて全国民が携帯電話を利用できる道が開けました。二つ目は、ディジタル化によって区切りの良いデータ単位での通信、すなわちパケット通信が実現され、携帯電話端末をデータ通信端末として利用可能となりました。この画期的な変化をもたらしたのが2G携帯電話であり、当社は、1998年から株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ(以下、NTTドコモ)と資本業務提携を行い、世界初の携帯電話会社によるインターネット・サービス・プロバイダー事業の立ち上げに関する技術支援事業を行ってきました。その後、携帯電話会社の主戦場は、3Gへとシフトしたわけですが、この変化は2Gへの変化と比較して、通信速度が6倍程度高速化した量的な変化であって質的な変化ではないと考えられます。

2.携帯電話市場動向を左右するもう1つのテクノロジー

 電話を固定から携帯へと一気にその主役を獲得した2Gの普及が始まった1995年頃、通信業界を一変することになるもう1つのテクノロジーである「インターネット」の普及が同時に始まりました。そしてこれまでの10年間、ブロードバンドとモバイルによるインターネット技術とビジネスへの挑戦の結果、今日、インターネットの世帯浸透率は83%に到達しました。また、固定網によるインターネット接続世帯中約2/3 がブロードバンド接続(ADSL、FTTH、CATV)となっています。また、固定網、移動網をあわせたインターネット利用者は、約7,400万人となり、インターネットは、国民的メディアの地位を確立したといえます。IP電話の急速な普及、通信事業者によるトリプルプレイ戦略(電話、映像、インターネット)へのシフトなどが、現実のものとなりつつあります。すなわち、10年前は、「通信網に合わせてインターネットを使う時代」でしたが、今日、「インターネットに合うように通信網を作り変える時代」を迎えています。この間2GにおけるNTTドコモのiモードの大成功は、いち早くパケット通信技術を確立したことに加えて、この潮流を察知し世界中の携帯電話会社の中で唯一オープンなインターネット接続を行ったことにあると思われます。

3.iモードが拓いたコンテンツ市場と次なる課題

 iモードによるオープンなインターネット接続環境の提供は、携帯電話を電話としてだけではなく、インターネットアクセス端末へと変貌させました。実際インターネット白書2005によると携帯電話利用者の三分の二の人が実際にインターネット接続サービスを利用しています。この結果、多くの発想豊かで行動力あるコンテンツ提供事業者とその関連の研究開発型ベンチャー企業が出現することとなりました。2000年の米国ネットバブル崩壊後の今日、日本における新興市場だけが世界でも突出して活性化しているのは、世界先進諸国でも圧倒的に普及した低価格・高速の固定網によるブロードバンド環境と、低価格ではないが国民的に普及したモバイル環境が整備されたことに起因しています。モバイルコンテンツの市場規模は、現在約3,000億円程度ですが、これはわずか5年で立ち上がった急成長市場であり、今後もさらに成長する可能性が高いと考えられます。

  しかしながら、固定網によるブロードバンドコンテンツ市場は、Yahoo!BB開始以来、約10Mbpsの高速接続が可能になったことから、テレビ放送並みの動画コンテンツの流通が加速しているのに対して、モバイルコンテンツ市場は、文字と静止画に表現形式が制約されています。ブラウザソフトもコンパクトHTMLと呼ばれるサブセットが主体で、今後は、より固定網のブロードバンド並みの帯域とフルブラウザ環境でのインターネット接続ニーズが高まっているといえます。

4.標準化作業のパラダイムシフト

 私自身、ネットワーク技術者として、IRI設立以前に、多くの標準化作業に関与してきましたが、通信には相互接続性が必要なので約束事を決める必要があり、この約束事を決める標準化手法は、デジュール標準とデファクト標準とに大別されます。デジュール標準とは、国際法に基づき国家の代表が集めって決めるもので形式的な手続きが重要となります。これに対してデファクト標準とは、事実上の標準で強力な企業が単独で決める場合(かつてのIBM社)、複数の企業がコンソーシアムを結成して策定する場合、および学術団体が主導して策定する場合があります。ここで携帯電話の通信方式は、これまでデジュール標準化団体であるITU(国連の下部組織である国際電気通信連合)が担ってきました。これは、国家代表による議論のため、完璧さが要求され、結果として長期間を要するという特徴があり、3Gの場合、約14年を要しました。一方、インターネットとLAN(ローカル・エリア・ネットワーク)/MAN(メトロポリタン・エリア・ネットワーク)に関する標準は、それぞれ学術団体であるIETF(インターネット・エンジニアリング・タスクフォース)とIEEE(米国電気電子技術者協会)とがその母体となっています。こちらは、実質的な議論を行う技術者代表によって標準化されるため、標準化作業期間が短いという特徴があります。電話やFAXまでは、ITU主導で標準化されてきましたが、コンピュータの構内接続やインターネットが技術革新の中心になってからは、IETFとIEEEとが産業界に与える影響が強まってきています。特にIP電話の標準化では、ITU標準であるH.323とIETF標準であるSIPとが市場投入されましたが、電話の世界で初めてIETF標準が主流となっています。これは、電話機同士の相互接続という側面よりもコンピュータ間接続という側面が本質的になっているからだと考えられます。

5.ポストモバイル3Gは電話かコンピュータか?

 上述しましたように2Gまでは、明らかに「携帯電話のための標準」でしたが、3Gからは、「より高速のインターネット接続のための標準」となってきています。このような状況の中で、ITUによる4GとIEEEによる無線LAN/MAN標準の技術がちょうどクロス領域を迎えていることは、モバイルにおける標準化の大きな転換点となる可能性が出てきたといえます。携帯電話の標準化の流れは、ITU主導であり、WAN(ワイド・エリア・ネットワーク)としての通信距離と移動速度が重要で100km以上の広域性と100Km/h以上の高速移動性が必須条件となります。これに対して、コンピュータ通信の標準の流れは、通信速度の高速性と実用的な通信距離とが重視されます。この意味において無線LAN(Wi-Fi、ワイファイ)の延長線上にある無線MAN(WiMAX、ワイマックス)は、未だその技術が明らかになっていないITU版4Gと比較して、約50Kmの伝送距離が実証されており、インテル社から通信制御用チップのリリースが発表されているほど現実性があると思われます。当然、信頼性等の面において完璧さを求めるITUと「そこそこ動く要素を組み合わせて何とか動かす」インターネットの世界とでは、技術手法や文化が異なるため、WiMAXがすぐに携帯電話市場を置換することにはならないでしょう。しかしながら、ワイヤレスブロードバンドという次世代のモバイル・インターネットの世界にもいつの日かIP電話やIP映像配信が導入されることは容易に想像できます。今年から来年にかけてトライアルと一部商用サービスが計画されているWiMAXによるワイヤレスブロードバンドの世界は、ユビキタス・ブロードバンドをいち早く実現する可能性のあるテクノロジーとなってきました。このWiMAXのフィールド実験と商用サービスとして、世界で初めて都心部で挑戦する株式会社YOZAN(以下、YOZAN)の動向によっては、数年後の日本における携帯電話ビジネスの未来予想図を大きく変えることになると考えられます。IRIグループは、このYOZANの挑戦に対して、1998年時点でのNTTドコモの挑戦に対する技術支援事業と変わらぬ姿勢で、技術革新を共同事業パートナーと共に担っていく所存であります。

今回発表いたしました資本業務提携は、YOZAN、IRI、IRIユビテックの3社提携となっており、IRIユビテックを中心にかなりの事業規模になると考えておりますが、フルブラウザ事業への参入を表明したIRI-Comなどグループあげてのビジネスチャンスを追求してまいりますので、今後共変わらぬご支援をお願いして、ポスト3Gモバイル事業への新たな取り組みについてのご報告を終わらせて頂きます。


2005年7月26日
株式会社インターネット総合研究所 代表取締役所長 藤原 洋

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