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所長コラム

株主の皆様へ(第52回)

株式会社アイ・エックス・アイのTOB成立のご報告
IPネットワーク/プラットフォーム技術の次なる市場開拓へ向けて

藤原 洋

 今年もすでに立秋を迎えましたが、株主の皆様におかれましては残暑の中、如何お過ごしでしょうか。詩人正岡子規は、「夏雲は岩の如く、秋雲は砂の如く」と季節の変化を雲の変化から表現しました。確かに気象学的にも、夏の雲は、熱い太陽に熱せられた地面から激しい上昇気流によって、入道雲のようにむくむくと垂直に発達するのに対し、秋の雲は、太平洋高気圧の勢力が弱まり、低気圧が日本列島に接近した時に砂を掃いたようにできる水平方向の雲という特徴があります。このように気温だけからは、感じ取れない季節の変化と共通する企業経営上の変化を感じる今日この頃でございます。今夏、当社グループは、株主の皆様の暖かいご支援により、創業以来、最高に熱い夏を過ごしてきました。当社子会社のIRIユビテックおよびBBTowerが上場を果たしたことに加えて、主幹事証券の適切な判断とアドバイスにより、株式会社アイ・エックス・アイ(以下IXI)のTOB(Take Over Bid、株式公開買い付け)が昨日無事成立致しました。今回は、当社グループが次なる成長フェーズに入る上で極めて重要な意義をもつIXIの当社グループ加入のご報告とその背景にある企業戦略について述べさせて頂きます。

1.ネットワーキングとコンピューティング環境の変化
~ IRIとIXIのそれぞれの役割 ~

 1995年ごろまでの通信ネットワークは、約100年間続いた電話交換ネットワークでしたが、以下に示すように、その後は約5年単位という目まぐるしく激しい世代交代を行っています。当社は、IP(インターネット・プロトコル)が、技術革新のコアを担うことを確信し、1996年の創業以来、常にネットワーキング環境の世代交代をパートナー企業と共に主導してきました。具体的には、第2世代では、日本初の商用IX(JPIX)の設立と運用、固定/移動通信キャリアのISP事業化技術支援を行いました。第3世代では、レイヤ3-IX(BBX)殆どのCATV/ADSL/FTTH/第3世代移動通信キャリアのIPネットワークに関する事業化技術支援を行いました。そして現在は、第4世代への本格的シフトへ向けて、WiMAXなどをコアとするユビキタス・ネットワークの構築・運用・端末要素技術開発はIRIユビテック中心に、ブロードバンド配信事業はBBTower中心に、その他多くのテーマに当社グループをあげて取り組んでおります。また、一方では、この第4世代ネットワークの特徴は、通信キャリアのIP化から企業・家庭ネットワークのIP化にIP適用分野がシフトしている時代であるといえます。しかしながら、IXI加入前のIRIグループは、ネットワーク事業者、ネットワーク機器メーカー、コンテンツ事業者とは強力な提携関係を築いてきましたが、一般企業ユーザーは、殆ど獲得できていないという状況がありました。

【ネットワーキング環境の変化】

第1世代(~1995): 電話交換網+専用線

第2世代(1996~2000): 携帯電話+ナローバンド・インターネット :当社創業!

第3世代(2001~2005): モバイル+ブロードバンド・インターネット

第4世代(2006~2010): ユビキタス+トリプルプレイ・インターネット 

   *トリプルプレイ:電話/TV/インターネットアクセスの一括提供

 一方、コンピューティング環境は、以下のような世代交代を行ってきました。特に、第2世代までは、独自に発展してきましたが、第3世代からは、IPネットワークの影響を受け、最早、コンピューティング環境は、インターネット抜きでは成立しない状況を迎えているといえます。

【コンピューティング環境の変化】

第1世代(~1985): メインフレーム

第2世代(1986~2000): クライアント/サーバ

第3世代(2001~2005): Web

第4世代(2006~2010): ユビキタス

 以上のように、Webからユビキタス・コンピューティングへと向う変化の中で、IXIは、企業情報システムの構築手法が、インターネット登場前の第2世代までと第3世代からとは大きく変化していることを逸早く察知したユニークな企業です。そして、このようなコンピューティング環境の世代交代は、企業情報システム構築ニーズにおいて、メインフレーム時代の名残としての情報システム部門主導から現場の事業部門主導への変化をもたらしつつある訳ですが、IXIは、この変化のあるべき姿を最も的確に把握している企業であると思われます。この点が、企業ユーザーへのIPネットワーク技術の提供を指向する当社が、IXIに対してグループへの参加を勧誘した最大の理由であります。

2.IXIの事業概要とIRIグループとしてのシナジー効果

 IXIは、ネットワークを活用したITが特に効果を発揮する、GIS(地理情報システム)に関するシステム構築技術をコアに多くの企業情報システム構築支援事業を行ってきましたが、以下にIXIの事業概要を示します。

[1]各種通信情報システムの導入に関するコンサルタント業務
[2]コンピュータソフトウェアの運用ならびに改善に関するコンサルタント業務
[3]コンピュータソフトウェアの開発および販売
[4]コンピュータ機器の販売、設置工事業
[5]グラフィックデザインの企画および制作
[6]航空運送事業
■主要事業領域:
ロケーション、モバイルワーク、コンテンツ、マーケティング、セキュリティ

 IXIは、以上の、事業概要を事業領域に対して企業ユーザーの現場主導の経営的視点から新たなITのあり方を提案している企業ですが、以下に示すように当社との共通点と相違点があります。

[1]
  • 当社が、あらゆる通信キャリア、NIer(ネットワークインテグレータ)と中立的連携を行っているように、IXIは、あらゆる大手コンピュータベンダー、SIer(システムインテグレータ)と中立的連携を行っている。

→IRIの領域=ネットワーキング、IXIの領域=コンピューティング

[2]
  • 当社とIXIは、特定のテクノロジーにこだわることなく、IRIは、時代が求めるテクノロジーを柔軟に取り入れているように、IXIは、顧客が求めるテクノロジーを柔軟に取り入れている。

→当社=時代先取り指向、IXI=マーケティング指向

[3] 当社のビジネスモデルが「標準サービス/部品のリピートオーダー型」であるのに対して、IXIのビジネスモデルは、「類似個別案件の構築型」である。

 以上のように、当社のビジネスモデル(IRIユビテック、BBTower等)は、損益分岐点を超えるまでに3~5年を要する先行投資型であるのに対して、IXIのビジネスモデルは、即時利益型であるといえます。特にIXIのビジネスモデルが、SIerと大きく異なる点は、GISとモバイルをコアとするシステム構築ノウハウを企業ユーザーに直接提供する中で、異業種企業ユーザー間に存在する類似性を抽出・蓄積し、これを顧客へのビジネスモデル構築提案素材として共通化しているところに最大の特長があります。極めてユニークな顧客へのBSP(ビジネスモデル・サービス・プロバイダー)であるといえます。IXIが、企業ユーザーにビジネスモデルを提供するたびに、多くの大手コンピュータベンダーのシステムやSIerの受託システム開発案件が発生するためにIXIは、企業顧客に加えて多くのパートナー企業から「愛される存在」となっています。

 このようにネットワーキングの当社とコンピューティングのIXIというユビキタス時代に融合する2つの専門分野において、ネットワーク業界とコンピュータ業界の中立的ベンチャー企業が連携することは、大きな社会的意義があるものと考えております。また、従来は「先行投資/時代先取り指向型のIRI(当社)」と「即時利益/マーケット指向型のIXI」の2つの企業文化の融合は、今後は「夢と現実」を追求できる企業グループへの発展を意図したものであり、21世紀の経済発展の一翼を担うべき新興企業グループとしてさらなる挑戦を続けていくという決意を新たにしたところでございます。実際に、当社グループ各社は、昨日のTOB成立を契機として、IXIとの共同事業(の具体的検討)に入りますが、成果が出次第開示させて頂きます。

3.企業成長のための資金調達について
~ 融資・公募増資・トランシェ型第三者割当・株式売却・MSCB ~

 当社は、創業以来様々な局面で成長に必要な資金調達を行ってきました。今回は、TOBのために行った資金調達の背景をご理解頂くためにこれまでの当社における資金調達の歴史と今回の資金調達戦略について述べさせていただきます。

 極めてハイリスクの創業時の1996年から97年初頭は、私を中心とした個人株主からの出資だけでスタートしました。初年度決算終了時点ではわずかですが、営業利益をあげていたことが評価され、当時の日本興業銀行、住友銀行、東京三菱銀行、東海銀行から数千万円単位の「銀行融資」を受けることができました。同時に「ワラント型ベンチャーキャピタル投資」を当時の興銀インベストメントとオリックスキャピタルから受けることができました。こうして、数人規模の企業から1998年には、数十人規模の企業へと成長することができました。ここへ一斉に訪れたのが銀行の貸し渋りですが、このわずか売上が4億円の時期に出資をしてくれたのが、ヤフー株式会社とキヤノン株式会社でした。総額で1億5000万円ですが、この初めての法人出資を通じて、財務体質の強化と信用力の向上をはかることができました。その後、住友商事株式会社、株式会社NTTドコモ、ソフトバンク株式会社との総額1億8000万円の資本業務提携を行いました。

 1999年12月に東証マザーズへ上場し、約109億円の「公募増資」による資金調達を行い、さらなる成長フェーズへ入ることができました。上場後は、労働集約型の技術支援事業から事業主体となるべくBBTowerやIRIユビテックに代表されるスケールアップ型ビジネスモデルへの転換を行ってきました。その後、2003年にはリーマンブラザーズへの「包括契約による第三者割当増資」と2004年の株式売却による約40億円の資金調達によってVAS事業の買収などIRIコミュニケーションズをコアとする通信事業者向けスケールアップ型ビジネスの集約を行うと共に、ファイバーテックのグループ入りを実現し、約200億円規模の事業規模までの骨格が完成しました。また、2004年末にはジュリアーニ/セイジキャピタルグローバルとのホームランドセキュリティ分野を中心とする資本業務提携によって当社とIRI-FTへの投資ファンドへの資金調達を行い、国際市場進出への準備を行いました。

 2005年に入ると、上場後の当社の企業経営環境に大きな変化が起こりました。それは、連結営業・経常・当期利益の黒字化の達成と、株主の皆様からのさらなる成長期待の増大であります。特に、技術革新の発展トレンドに伴う技術戦略上、またさらなる成長を遂げるための財務戦略上、今回のTOBは、またとないチャンスであると捉え、機動的な資金調達を行って、これを成功させるあらゆる可能性を模索してきました。既に、当社はこれまで、ほぼ考えられる全ての資金調達手法を駆使して、成長してまいりました。そして常に当社にとっての最大の関心事は、既存株主の利益を増大させつつ新株発行による新規株主の勧誘を実現することでした。銀行融資による希薄化の防止、子会社株売却による資金調達、公募増資など様々な資金調達手法を検討してきましたが、財務体質の健全性確保、子会社企業価値の確保、一挙的な希薄化防止などの観点から当社の今回の資金調達は、国際的な機関投資家向け販売力のある証券会社の選定を前提とした、発行体企業に極めて有利な「貸し株条項がないこと」および「Any Time Call Option」条項付(発行体企業は、いつでも転換社債をキャンセルし返金によって株式の希薄化を防止する権利を保有)のMSCBとしました。MSCB(Moving Strike Convertible Bond)とは、修正事項がついているのが特徴の転換社債で、株式会社ライブドアと株式会社フジテレビジョンとがニッポン放送の買収を巡って急速に注目を集めた資金調達手法です。機動性の良さという側面がある一方で、条件によっては、一気に希薄化が進むという側面もありますが、当社は、「貸し株条項がないこと」および「Any Time Call Option」の2つの条件を付けることで、最適な資金調達ができたのではないかと考えております。今回当社が実施しましたTOBとMSCBをあわせたやり方は、フジテレビジョンに次いで当社が第2事例となりますが、TOB成立は、今回の事例が初めてということですのでビジョンと財務戦略が一致した歴史に残る事例となることと確信しております。この点につきましては、株主の皆様からの厳しく暖かいご支援の賜物と改めて感謝申し上げます。

 当社および上場グループ各社の決算発表を間近に控える中、上場以来初めての連結営業利益・経常利益・当期利益の黒字化は、確実となっておりますが、今後は、連結、単体のさらなる収益向上に邁進し、今回のTOBを契機として、株主の皆様にとっての利益還元ができる企業体質を創っていく所存ですので、今後共変わらぬご支援をお願いして、今回のTOB成立についてのご報告を終わらせて頂きます。



2005年8月9日
株式会社インターネット総合研究所 代表取締役所長 藤原 洋

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