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所長コラム

株主の皆様へ(第56回)

MSCB償還のための三井住友銀行コミットメントライン契約のご報告
~子会社上場とTOB成立後の資金調達と今後の成長戦略について~

藤原 洋

 株主の皆様におかれましては、衣替えの季節を迎えましたが、如何お過ごしでしょうか。先週9月22日には、お蔭様をもちまして定時株主総会と経営近況報告会を終えました。平日の午前中という時間帯にも関わらず、上場来最多の100名を超える株主様にご来場頂きました。300名の座席を用意させて頂いておりましたので、座席数にはゆとりのある雰囲気ではありましたが、総会でのご質問や報告会においても、活発な質疑応答をさせて頂く機会が得られました。株主総会と報告会での株主の皆様との対話を通じて、特にMSCBの転換と今後の成長戦略に関心を持って頂いていることを感じました。このような状況の中で、9月28日当社取締役会にてMSCB償還を目的とした三井住友銀行とのコミットメントライン契約に関する決議を行いましたので、その背景と今後の成長戦略について述べさせて頂きたいと存じます。

1.当社にとっての資金調達環境の変化

【創業期】
 当社の創業期は、1996年~97年は、私をはじめとする数名の創業メンバーと、「学術研究活動の成果を産業界へ」という創業精神に賛同をして下さった大学研究者の方々からのエンジェル出資6,000万円にて主として電話会社向けのIPネットワーク技術支援事業とIX(インターネットエクスチェンジ)の構築事業から開始しました。この時期は、企業にとって最もリスクの高い時期ですのでたった一人で投資判断できる個人株主でのスタートでした。
 続けて、増収増益になったので、通信機器メーカー向けの技術支援事業を強化するために当時の興銀インベストメントとオリックスキャピタルからのワラント型VC投資5000万円を受け、同時に私の個人保証での銀行融資3,000~5,000万円(当時の日本興業銀行、住友銀行、東京三菱銀行、東海銀行)から数億円の融資という形式の資金調達を行えるようになりました。

【IPO準備期】
 1998年~99年は、IPO準備期となりましたが、銀行の不良債権処理の一環で無担保融資を一斉に引き上げる、いわゆる「貸し渋り」時代を迎えることとなりました。でも創業以来3年連続で黒字決算だったため、優秀な社員が来てくれていつのまにか約30名の企業規模に拡大しました。しかし一方では、運転資金を確保する必要があり、当社の目標とする高収益企業ヤフー株式会社とキヤノン株式会社との資本業務提携によって、合わせて1億5000万円の新株発行による資金調達を行い、銀行融資フェーズを終了しました。その後、住友商事株式会社、株式会社NTTドコモ、ソフトバンク株式会社への第三者割り当て増資によってさらに数億円の資金調達を行って完全にキャッシュフロー上の課題を解決することができました。

【IPO後の先行投資期】
 1999年12月に東証マザーズへ上場を果たし、約109億円の「公募増資」による資金調達を行い、さらなる成長へ向けて先行投資期に入りました。すなわち、労働集約型の技術支援事業からBBタワー、IRIユビテックに代表されるスケールアップ型ビジネスモデルへの転換を行ってきました。その後、2003年のリーマンブラザーズへの「トランシェ型第三者割当増資」と2004年のパソナテック株式の売却による約40億円の資金調達によってVAS事業の買収などIRIコミュニケーションズをコアとする通信事業者向けスケールアップ型ビジネスの集約を行うと共に、ファイバーテックのグループ入りを実現し、2005年6月期には約200億円規模の事業規模までの骨格が完成しました。また、2004年末にはジュリアーニ/セイジキャピタルグローバルとのホームランドセキュリティ分野を中心とする資本業務提携によってIRI本体への45億円とIRI-FTへの投資ファンド95億円への資金調達を行い国際市場進出への準備を行いました。

【IPO5年後からの成長期】
 当社グループの事業規模を今日の約200億円から1000億円規模へと成長させるためには、IP技術の提供先をネットワーク業界への限定から広く一般企業へと拡大が急務となりました。そこで2005年7月に、エンタープライズ(一般企業顧客)市場において圧倒的な市場影響力をもち高い売上・利益成長率を誇る東証二部上場企業IXIのグループ入りを早期に進めることとしました。その結果8月15日にIXI株53%の取得に成功し、2006年6月期の売上予想としては約463億円(前年度比2.5倍)、営業利益18.4億円(前年度比4倍)を見込めるまでになりました。このエンタープライズ市場に強いIXIのグループ入りによって、ネットワーク市場に強い旧IRIグループとのシナジー効果によって売上1000億円、利益100億円の中期目標が視野に入ってきました。そこで、この優良企業IXIのTOB所要資金の調達を検討するにあたっては、様々な手法を検討し、機動性とキャッシュフローリスク管理の観点から、約117億円のうち110億円をMSCB (Moving Strike Convertible Bond)による資金調達を行うことといたしました。これは、上方・下方ともに転換価額に修正事項がついているのが特徴の転換社債で機動性が高い側面と、価額の下方修正時に希薄化が進むという側面をもっています

2.当社発行のMSCBの特徴と今回の銀行コミットメントラインについて
  ~MSCBの背景にある直接金融と間接金融のバランスとは?~

 転換価額の見直しが頻繁に起こる中で、銀行融資による希薄化の防止、子会社株売却による資金調達、公募増資など様々な資金調達手法を検討してきましたが、財務体質の健全性確保、子会社企業価値の確保、一挙的な希薄化防止などの観点から当社の資金調達は、国際的な機関投資家向け販売力のある証券会社の選定を前提とした、発行体企業に極めて有利な「貸し株条項がないこと」および「Any Time Call Option」条項付(発行体企業は、いつでも転換社債をキャンセルし償還することによって株式の希薄化を防止する権利を保有)のMSCBとしました。

 この夏は、前にも述べたように創業以来最も暑い夏となりました。すなわち、子会社2社の上場、IXIのTOBによるM&Aを行いましたが、物事には順序が重要だということを再認識しました。3段論法的な説明をさせて頂きますと、IRIグループにとっての成長の鍵は、これまでの通信キャリア、コンテンツ事業者、電子機器メーカーという顧客ドメインをさらに拡大することでした。IP技術をコアコンピタンスとするIRIグループにとって、次なるマーケットは、明らかにエンタープライズ市場であり、当市場分野で最高の顧客基盤をもつIXIの過半数を取得するということでした。しかし、それには、117億円の資金が、必要があり、MSCBによって資金証明を確定して東京証券取引所の理解を得るというところから始まりました。その結果、IXIはIRIグループ入りを果たしましたが、一方では、株式の希薄化懸念が浮上しました。前に述べたように今回のMSCBは、貸し株のないことから実際は、「売り圧力」は発生しない訳ですが、心理的な「買い抑止圧力」が顕在化したのではないかと考えております。そこで、繰上げ償還のためのコミットメントラインの設定契約を行うという経営判断となりました。このコミットメントラインの設定は、グループ随一の潤沢な営業キャッシュフローを有するIXI株の過半数を保有しているという根拠がTOBによって確立したことにあります。また、同時に子会社2社上場は、さらなる担保価値を産んだために三井住友銀行の歴史的な判断を促したということであります。

 以上に述べましたように当社は、株主の皆様の期待、すなわち1年で2倍以上の売上規模の拡大と4倍以上の営業利益の拡大というミッションを果たしつつ、それを下回る株式の希薄化に留めるという相反するミッションだと認識しております。

 このような極めて困難な経営判断が求められる中、株主の皆様のご支援に併せて日本経済の中核を担う三井住友銀行のご決断に敬意を表すると共に感謝申し上げる次第です。また、ここまで当社の成長をささえて頂いた株主の皆様のお蔭をもちまして、三井住友銀行という新株発行を伴わなくとも成長を持続するための、強力で掛替えのない、資金調達パートナーを得ることができましたことを重ねて御礼申し上げます。
 今後は、業績向上という企業経営の責務と株式の希薄化防止を最大の経営指標として今後とも尽力していきたいと思いますので、今後とも変わらぬご支援の程お願い申し上げます。11月には、IXIグループ入り後初の四半期決算発表を行いますので、何卒、11月の四半期決算発表会におこし頂きますようお願い申し上げます。

2005年9月30日
株式会社インターネット総合研究所 代表取締役所長 藤原 洋

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