第1回 新・産業革命論 事始め (2006年 1月)

連載開始にあたって

 このたび、光栄にもこれから約2年、連載執筆を担当する運びとなりました。
単なる“調べ物”では申し訳ないので、科学技術史上の客観的事実の集積は他著に譲り、私自身が遭遇したさまざまな事件、多くの人々との出会いを通じて体得した、体験的事実の集積に基づく視点から読者の皆様のお役に立ちたいと思います。

 私自身の約半世紀の人生を振り返ると、大学で科学者を目指し授業料を払いながら基礎を学び、
研究開発技術者として給料をもらいながら実学を学び、ベンチャー企業の経営陣に加わりながら経営を学び、 インターネット時代の到来と共に起業し、今日に至っています。

 そこで、産学官連携での研究開発と国際標準化活動に燃焼した10年とベンチャー企業経営に身を投じた10年の集大成のつもりで、今回の連載に取り組んでいきたいと思います。
それでは、「元気な若者は多いが未熟極まりない」インターネット業界で企業経営に悪戦苦闘する傍ら、
半ば実況中継的に、時には回顧的に、今なお現在進行形である「インターネットによる産業革命」の過去・現在・未来について述べさせて頂きます。

新・産業革命論のとば口

 新産業革命論の出発点として、「科学者と技術者」には、自然発生的に「好奇心と探究心」が芽生え、
時として、とんでもない「発見と発明」をしてしまうことがあります。
そのとんでもない「発見と発明」が、「生活習慣と商習慣」を変え、「制度と法律」を根本的に変えることになります。ここでは、このような「社会の部分的変化」をもたらす、一連の「発見と発明」を「技術革新」と呼び、さらに一連の「技術革新」によってもたらされる「社会の構造的変化」を「産業革命」と呼ぶことにします。

序章にすぎないインターネット

 さて、明らかに「インターネット」は、現代社会の構造を根本的に変える「技術革新」です。そして、その変化は、まだ始まったばかりです。インターネットの本格的商用化が始まって約10年ですが、これまでの10年は、インターネットが社会インフラとなるための序章でした。すなわち、電話のために構築された通信網を使って、何とかインターネットが使えるようになったところです。そして今ようやく、人類は、「インターネットに合うように」通信網を作り変える時代を迎えています。
欧州を発信源とする、ITUによるIP(InternetProtocol)を基本としたNGN(NextGenerationNetwork)標準化の動きは、その1つの時代表現でもあります。過去の10年は、「インターネットと通信の融合」の10年であったといえます。

 さて、ネットベンチャーによる放送局の買収騒動だけに目が奪われがちですが、本質は技術革新にあり、今後の10年は、「インターネットと放送の融合」の時代となるでしょう。では、具体的に、どのような融合の時代となるのでしょうか?この将来展望の精度を上げるために、まさに原点に帰って「技術革新の本質」をとらえ、それに対応するにはどのようなビジネスが成立し、どのような法制度の見直しが必要になるのか、これからの連載の中で、皆様と共に考えていきたいと思います。