第3回 IPが通信に続いてコンピュータ業界に与えた衝撃とは?
(2006年3月)

メインフレームPCからパーソナルPCへ

 今回は通信業界に続いて、IPの登場による「コンピュータ業界の構造変化」という話題を取り上げます。その昔、「1台の高価なコンピュータを多くの人々が利用するメインフレーム・コンピューティング」の時代でした。この頃の私は社会人になりたてで、当時世界最大のコンピュータメーカーの日本法人に勤務していました。その時代のコンピュータ業界は1つの巨大企業と数社の類似企業が、ハードと基本ソフトを独占し、各国で個別の適用業務用ソフトを開発するいわゆる受託型情報処理サービス企業群が階層構造を形成してきました。その後、国内電機メーカー子会社へ転じ、8年ほど高価なコンピュータを設計する仕事をした後、PC用Basic言語が中心の小さなソフト会社の国内独占代理店会社へ移り、同社が世界一のPCソフト会社へと成長していく過程を目の当たりにしました。すなわち、マイクロプロセッサの登場によって、「1人が1台のコンピュータを利用するパーソナル・コンピューティング」へと進化し、オフィスでの「便利さ」を追求する時代となりました。同分野では、市場淘汰の結果、世界に標準CPUを作る1社と標準ソフトを作る1社の事実上の独占となりました。しかし、これはPCだけの話で、社会インフラと家庭生活を変えるまでの変化は起こりませんでした。

便利で楽しいインターネット時代の到来

 そこへ登場したのが、インターネットです。インターネットは、組織毎に個々のコンピュータを接続して組織内ネットワークを形成し、その組織内ネットワークがさらにISPを介して世界につながり、また個人が直接ISPに加入し、ISP同士が相互接続することで世界規模のネットワークを構成しています。インターネットでは、コンピュータ1台毎に固有のIPアドレスが割り当てられていて(実際はアドレス不足でIPv6への移行が進行中)、世界中のコンピュータを相互接続できる仕組みになっています。この仕組みが社会に普及し始めてから約10年ですが、コンピュータは、家庭と携帯電話の中にも入るようになりました。すなわち、PCだけではできなかった、「つながる便利さ」と「楽しさ」を、追求する時代となりました。

IPがもたらす大きな構造変化

 また、最近では、オンライン証券/バンキング等、信頼性の要求される金融取引にも使われるようになり、インターネットで相互接続された「コンピュータ群」が社会インフラとなりつつあり、いま徐々に同分野において「多数のコンピュータを1人が利用するユビキタス・コンピューティング」が台頭しつつあります。このインターネットによって「ユビキタス・コンピューティング」が進化することで、PC登場後も「メインフレーム・コンピューティング」が担っていた社会インフラを一新し、家庭生活へのコンピュータの浸透が本格化し始めました。いま、IPという技術革新が、通信業界に続いてコンピュータ業界の構造変化を起こしつつあります。コンピュータ業界は、IPネットワークで相互接続された経営資源に対してGIS(地理情報システム)を活用して経営効率を向上させるアプローチのように、「系列取引型垂直分業構造」から、「テクノロジー要素型水平分業構造」への転換が進むものと思われます。