第5回 IP上に出現したWebのインパクトとは?
(2006年5月)

世界を大きく変えた「MPEG」と「WWW」

 私が訪問研究員として米ベル通信研究所で第2回目のMPEG会合に出席していた頃、WWW(World Wide Web)が発明されました。この全く異なる2つの技術が世界を大きく変えることになったのです。WWWは、欧州核物理学研究所(CERN)のティム・バーナーズ・リーが論文閲覧システムとして1989年に考案、91年に一般公開されました。データベース研究者も気づかないほど数多くのデータが存在する場所(URL)にリンクを張るだけのシンプルなアイデアでした。商用化前のインターネットで、論文検索が飛躍的に便利になったのことを覚えています。

ブラウザからYahoo!、Googleの登場まで

 92年、イリノイ大学の学生だったマーク・アンドリーセンは、ティム・バーナーズ・リーが考案した「HTML」で論理構造やグラフィックスを記述し、また画像や音声など文字以外のデータや、他の文書のある場所(=ハイパーリンク)も埋め込み、さらに自由に取り出せる仕組みを考えました。このWebページを閲覧するためのアプリケーションソフト(ブラウザ)は、92年から普及、彼は93年にモザイク・コミュニケーションズ社(後のネットスケープ社)を設立しました。現在では世界中のWebサーバをつなぐ巨大網となり、激しいメディアビジネスの戦場になっています。
 その後、Web上で、キーワードから所望のURLを探し出すさまざまな「検索エンジン」が出現。勝ち組みになったのは、スタンフォード大学院生だったジェリー・ヤンとデビット・ファイロが95年に設立したYahoo!社でした。このYahoo!に代表される検索エンジンを用いたディレクトリ(検索)・サービスという新しいビジネス形態が生まれました。同社は、ポータル(玄関口)サービスへと発展しましたが、検索エンジンのアルゴリズムを徹底的に追及したのが、やはり同じスタンフォード大学の大学院生だったラリー・ページとセルゲイ・ブリンです。彼らはリンク数の統計から優先順位をつけて自動的に探し出すクローラー(ロボット)型検索エンジンの仕組みを作りGoogle社を98年に設立しました。

さらに進化するポータルと検索エンジン

 私自身は、96年にIRIを設立し、同社に注目はしていましたが、所詮Googleは、優れた検索エンジンでしかなく、Yahoo!と比較してビジネスとしては難しいだろうとみていました。一方、別の技術をもったOverture社(設立時はGoTo.com、現在はYahoo!の完全子会社)が97年9月にIdealab社のビル・グロスによって設立されました。Overture社は、関連性のある特定キーワードを広告主に入札してもらい、検索結果に表示可能にする「Pay-For- Performance検索サービス」(スポンサード・サーチ)を開始しました。
 Googleは、2002年から高額の特許料を払って、同技術を取り入れて、「検索連動型広告」を中心にビジネスを組み立て直し、一気に高収益企業となりました。Yahoo!とGoogleは昨年、地上波4大ネットワークの広告収入を上回るまでに成長しています。今後、さらにポータルサービスと検索エンジンは更に進化し、巨大なメディアへと大きく変貌する可能性があると思われます。