
第6回 インターネット革命は家電産業を変えるか?
(2006年6月)
注目を集めた97年の「ウェブTVプラス」
今回は、「インターネット革命は家電産業を変えるか?」という話題です。
歴史を紐解くと、1997年11月、ウェブTVのバージョンアップ版製品「ウェブTVプラス」がコムデックスに出展され、注目を集めました。同製品を発表したウェブTVネットワークスは、95年に設立されたシリコンバレーのベンチャー企業で、設立2年後の97年4月、同社をコンピュータ産業の新たな雄マイクロソフトによって、4億2500万ドル(約500億円)で買収されました。96年頃の元来のウェブTVは、「家庭のテレビからインターネットにアクセス」というのが特長で、ハードディスクを持たず、思想的にはマイクロソフトと対立するオラクルが考えていたNC(ネットワーク・コンピュータ)的な製品でした。
これに対してマイクロソフト傘下で開発された「ウェブTVプラス」は、「テレビをインターネットと組み合わせ、より一層テレビを楽しむ」もので、インターネットよりテレビ中心へと設計思想を変えたものでした。また、1.1GBのハードディスクを備え、NCからPCへと変貌を遂げていました。 創業者3人が残り、ビル・ゲイツと新たな夢を共有し、すでに制覇したPC市場ではなく、家電市場への挑戦を始めたのでした。
MSX向け放送実験の懐かしい思い出
当時のアメリカで、モデム付きPCを持つ家庭約2000万世帯に対して、CATV経由でテレビを見る家庭が約6400万世帯あり、大いなる野望でしたが、ゲイツのPCから家電への挑戦は、実は2度目でした。
1回目の挑戦は、83年に登場したMSXです。これは、マイクロソフトとアスキーとが共同で進めたもので、私も当時MSXにネットワーク接続担当責任者として関わっていました。インターネット以前のビデオテックスやCATVとの接続にさまざまなトライアルを行いました。一番思い出深いのは、カナダ製の6.3Mbpsの下り専用ケーブルモデムを導入し、諏訪のレイクシティケーブル(現LCV)で行った、MSX向け高速データ放送実験です。ウェブTVが登場する10年以上も前のことでした。
マイクロソフト「3度目の挑戦」の結末は?
しかしながら、MSXとほぼ同時に出現したゲーム専用機ファミコンが大ヒットし、家電メーカーはMSX製造から撤退しました。一方、97年に登場したマイクロソフト版「ウェブTVプラス」は、第一に、PCとTVの融合による、双方向エンターテイメント番組の創造。第二に、データ放送の「プッシュ」モデルで、マルチメディアを家庭に配信することによる、インターネットのボトルネックの解消、第三に、ソフトのダウンロード販売と継続的アップデート、第四に、ニュースや情報の有料サービスなど新ビジネスの構築・・・・・という大構想を掲げていましたが、あえなく4年程前に完全撤退を余儀なくされました。
そして今日、再び、マイクロソフト社は「メディアセンター」を家電標準とすべく、三度目の挑戦を始めています。「PCとTVの融合」は、二度にわたって市場は受け入れませんでした。今度は、ブロードバンド時代を迎えての「インターネットとTVの融合」、この古くて新しいテーマは、どのような結末を迎えるのか?とっても興味深いテーマであり、この連載中に再度触れたいと思います。
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