第7回 インターネット革命は放送産業を変えるか?
(2006年7月)

いま話題のIP放送「GyaO」と「TV-BANK」

 今回は、「インターネット革命は放送産業を変えるか?」という話題です。

 歴史を紐解くと「通信と放送の融合」というキーワードは、いつも通信業界から発せられてきました。旧電電公社時代の三鷹でのINS実験、狭帯域N-ISDNによるTV電話の発展形としての動画像サービス、ATM交換に基づくB-ISDNによるVoD、そして今話題となっているのが「ブロードバンド登場後のIP放送」です。

 通信ネットワークを用いた動画像サービスは、まさに4度目の挑戦となります。これまでの3回は、ことごとく失敗でしたが、今度はモノになるのでしょうか?この動向を展望する上で、現段階で最も積極的にサービスを展開している、「GyaO」と「TV-Bank」に目を向けてみます。

現行のTV放送を補完する2つのサービス

 GyaOは、約1000タイトルのVoDとリアルタイム配信の組み合わせであり、TV-Bankは、他のサイトへのリンクを含めて約10万タイトルのVoDとリアルタイム配信の組み合わせです。GyaOが、編成と自主制作に力点を置いた擬似TV放送型であるのに対して、TV-Bankは、コンテンツ収集力に力点を置いたWeb1.0検索型であるといえます。また、ビジネスモデルとしては、GyaOが無料広告モデルであるのに対して、TV-Bankは、無料と有料の組み合わせモデルとなっています。どちらも現行のTV放送のテイストを残しつつも、多くの選択肢のあるVoDブロードバンド・インターネットならではの特長を活かしたサービスとなっています。

 実際に、財団法人インターネット協会監修の2005年版『インターネット白書』のインターネット利用者の映像配信に対する利用動向調査によると、利用したい映像配信サービスとしては、①VoD、②過去のTV放送、③スポーツ中継の順となっており、明らかに現行TV放送とは異なる、あるいはそれを補完するサービスのニーズが高いことがわかります。

 以上のことから、GyaOとTV-BankというITベンチャーによるインターネットを用いた動画像サービスは、現行放送と競合するサービスではなく、補完するサービスであると言えます。また、両者合わせて1000万人程度のアクティブユーザーを獲得しているとみられ、事業的にも損益分岐点に到達するのは時間の問題という状況にあり、4度目の挑戦は、初めての成功が近いと思われます。しかしながら、NHK、民放など、現行放送の約3兆円市場と比較すると、IP放送市場がその1%まで到達するのには相当の時間がかかりそうです。

インターネットが雑誌業界の市場を奪う?

 私自身は、じつは昨年初頭に起きた敵対的買収騒動以来、放送業界が戦々恐々としてきたIP放送の脅威は、「実在しない」と考えています。むしろ、真の技術革新は、Web2.0型の全く予期しない動画サービスの登場にあるのではないかと思われます。市場規模でいうと、インターネット広告の最有力モデルは、Web2.0と相性の良い検索連動型広告であり、2006年の754億円から2009年の1292億円(電通総研)へと着実に成長しています。この方向に大きなビジネスチャンスがあると思いますが、このような新たなインターネットに市場を奪われつつあるのは、じつは放送業界ではなく、雑誌業界です。次回にその辺の話題を取り上げたいと思います。