第10回 インターネット革命は出版業界を変えるか?
(2006年10月)

「本を読まなくなった」日本の社会

 今回は、「インターネット革命は出版業界を変えるか?」という話題です。紙メディアの週刊誌、月刊誌、書籍などから成る出版産業の規模は、約2兆6000億円を記録した1996年をピークに減少を続けており、昨年時点で約2兆円となっています。この背景を"出版不況"といって、業界では、読書離れ、万引き問題、携帯電話など通信費の増加、蔵書欲の減退、二次流通市場の増加、図書館における新刊本・閲覧の増加など、一見すると出版業界には暗い話題が多く「構造不況」だとの指摘があります。日本はこのまま「本を読まない社会」へと向かい、出版業界は本当に衰退してしまうのでしょうか?

 ところで、デジタルコンテンツ白書によると、産業団体や関連省庁が発表した数値をもとに推計した2005年の「メディアコンテンツ産業の市場規模」は13兆6,811億円で、2004年の13兆5,008億円に比べ、1.3%増加しています。この数値にはデジタルコンテンツ市場規模も含まれますが、2005年の「デジタルコンテンツ市場規模」は2兆5,275億円で、2004年の2兆2,617億円に比べ、11.8%も増加しています。コンテンツ別の推計では、映像が前年比30.4%増の7,088億円、音楽が同3.1%増の7,864億円、ゲームが同8.8%増の4,950億円、図書・画像・テキストが同7.4%増の5,373億円でした。

コンテンツはパッケージからネット流通へ

 一方、デジタルコンテンツ市場の「流通メディア別割合の経年変化」を見ると、パッケージ流通がまだ大半ですが、2001年の84.4%から2005年は71.7%へと縮小傾向を示しており、インターネット流通は2001年の6.8%から2005年には13.7%へ、携帯電話流通は2001年の8.9%から2005年は14.6%へと拡大傾向にあります。このように、出版を含む放送、新聞などのコンテンツ市場は、全体で1%以上の伸びを示し、特に、その要因は、10%以上の伸びを示すデジタルコンテンツ市場であり、中でもとりわけ、インターネットや携帯電話で流通するコンテンツが成長するデジタルコンテンツ市場全体を牽引していくと考えられます。

コンテンツ係数が知的社会の新たな指標に!

 これまでは、家計に占める食費の割合である"エンゲル係数"が、社会の発展度合いや豊かさの指標となってきましたが、これからは「家計に占めるコンテンツ消費の割合を示す"コンテンツ係数"が知的社会の発展度合いになる」とここで主張したいと思います。この意味において、メディアコンテンツ市場の全体の伸び、中でもインターネットを中心とするネットワークを介したデジタルコンテンツ市場の成長をみると(文化的な側面から捉えた)日本の知的メディア社会は、順調に発展していると考えることができます。出版業界は、構造不況ではなく、インターネットという技術革新に晒され、96年を境にその影響が顕著に出始めたと考えるべきです。

 そこで、今後の「出版業界のとるべき方策は何か」を考えると、第1に、書籍を中心とした紙メディアの流通市場が、従来の「取次店→書店」という流れから、現在では"ネット流通型"に急速に変化していることへの対応です。第2に、雑誌を中心とした出版コンテンツにおける"紙メディア"から"ネットメディア"への対応です。言い換えれば、店頭での立ち読み型からネット評判型への変化を捉え、「評判を創る」Web2.0型対応ともいえます。この新時代のWeb2.0型対応については、何度かに分けて次回以降に述べてみたいと思います。