第11回 業界で最もホットなWeb2.0対応とは?
(2006年11月)

名付け親ティム・オライリー

 前回では、出版業界は店頭での立ち読み型からネット評判型への変化を捉え、「評判を創る」Web2.0型に対応すべきであると結びました。この新時代のWeb2.0型対応については、何度かに分けて次回以降に述べてみたいと思いますが、今回は、その第1回目とします。

 そもそもWeb2.0とは、Webのバージョンアップが進んだことのように理解しておられる人が多いようですが、そうではなくて、米国のコンピュータ出版業界の大御所として知られるオライリー社のティム・オライリー会長が「Web2.0」と命名、その性質を分析した論文"What is Web2.0"を2005年に発表したことから始まります。

 同氏は、その論文の中で、「ホームページを見る」、「調べ物をする」といった特定の場面で使われてきたWebが「最近ではあらゆる場面で活用されるようになってきている」と指摘し、そのような2004年前後におけるWebの利用状況の変化を「Web2.0」と名付け、現在インターネット業界で最もホットな話題に仕立てたのでした。

APIを無償公開する大胆なアマゾンやグーグル

 Web2.0は「概念に留まっている」との批判もありますが、トレンドを創り出したことと、社会に大きな影響を与え始めたことは紛れもない事実です。最近の流行語の発信源としてみれば、「ユビキタスは日本から」に続いての「Web2.0は、アメリカから」といったところでしょうが、その意味では、ユビキタスを流行らせた野村総研理事長の村上輝康氏とティム・オライリー氏の果たした役割には、敬意を払いたいと思います。

 さて、Wen2.0には、2つの大きな基本概念、「プラットフォームとしてのWeb」と「集合知の利用」があります。「プラットフォームとしてのWeb」とは、パソコンなどの情報端末で情報アクセスを行う際、かつては、OSやアプリケーション用のパッケージソフトウェアが主体であったのに対して、Webによるサービスが主体となるという基本概念です。

 その背景には、2002年頃からWebサービスが開始され、その中でもAPI(アプリケーション・プログラミング・インタフェース)を公開して無償で使わせる大胆な企業が出現したことにあります。例えば、アマゾン・ドット・コム社は、苦心して作り上げた自らのWebによる自動的な書籍販売サービスがあり、またグーグル社には、同様に地図情報サービスのグーグルマップスがありますが、両社は、APIを公開し、多くの企業や個人を巻き込んだビジネスモデルを構築したのでした。

集合知の利用が常識を打ち破る

 一方の「集合知の利用」とは「一部の優れた人の知恵よりも、多くのそこそこの人たちの知恵を集めた方が人々の役に立つ」という視点に立脚していることにその本質があります。検索エンジンとしてのグーグルの成功は、リンクによるユーザー同士の注目度を解析し、その重要度を判定するペ一ジランク・アルゴリズムにあり、アマゾンの成功は、書籍やCDなどの商品群に対して、他の消費者からの評価を参照できる仕組み創りにあります。ウィキペデイアは、多数の利用者が修正を加えながら閲覧できる仕組みを作ることで、これまで百科事典の代名詞とされてきた有名なブリタニカの見出し項目数(英語版)16万件をはるかに上回る、100万件以上の見出し項目数を誇る世界最大の百科事典へと発展したのでした。