第14回 インターネット革命を担う原理はどのような科学か?
(2007年2月)

B・アーサー博士が読み解く5大産業革命

 人材育成は「国家の発展において最も重要」との認識が高まっています。今回はインターネット革命を担う原理と必要な人材育成という視点で述べたいと思います。
 米サンタフェ研究所は、"複雑系"をテーマとする研究所ですが、複雑系経済学の専門家のブライアン・アーサー氏は、インターネットによる情報革命は、以下に分類する五大産業革命の一つであると述べています。

 ①1780~1830: イギリス 紡績機械(水力)
 ②1830~1880: イギリス 鉄道(蒸気機関)
 ③19世紀末 :  ドイツ 重工業(電動機、鉄鋼)
 ④1913~1970代: アメリカ T型フォード(1913)からの製造業革命
              ⇒大量生産、自動車産業、石油の時代
 ⑤20世紀末~: アメリカ ディジタル情報革命

 また、多くの経済学者は、①と②を第一次産業革命、③と④を第二次産業革命、⑤を第三次産業革命と呼んでいます。人類は、第一次産業革命で「動力」、第二次産業革命で「重化学工業」を創出することで、第二次産業を確立しました。また第三次産業革命は、大雑把に言えば「第三次産業の自動化」をもたらすものです。

第三次産業革命の原理は「数理化学」で働く

 社会の発展には、「時代に応じた」産業革命の担い手となる人材育成が重要ですが、産業革命の原理を解明する必要があるように思えます。第一次産業革命の原理は、動力のための「力学」で、ニュートンのお国らしくイギリスで発展し、工学としては、「機械工学」でしょう。第二次産業革命は、重化学工業のための「物質科学」で、素材加工、物質合成、発電、通信機やコンピュータの製造、半導体の微細加などです。しかし、ここでの大きな誤解は、「通信機、コンピュータ、半導体をつくることが情報革命だ」という認識にあると思われます。当然これらの最先端機器や材料を作ることは重要ですが、第三次産業革命の原理は、もはや物質科学ではなく「数理科学」だということです。

ガウス賞、伊藤名誉教授の功績

 昨秋から東京大学大学院数理科学研究科の客員教授を拝命し、多くの研究者や大学院生と接するようになったのですが、そこで認識を新たにすることがありました。過去フィールズ賞を受賞された著名な日本人数学者3名の方がそうであったように、私たちはこれまで数学科について「純粋数学をひたすら追求し、実社会とは無縁の別世界を形成してきた」というイメージでとらえてきました。ところが、そうした先入観はじつは大きな間違いだということです。
 昨年8月、数学の応用に対する最高の賞(数学における唯一の世界的学術機関である国際数学連合が2002年に制定した)ガウス賞の第1回受賞者に京大名誉教授の伊藤清先生(東大数学科卒)が選ばれました。伊藤先生の業績は、数理ファイナンスや金融工学の原理の発明ですが、まさに情報革命の原理が「数理科学」にあるという顕著な例です。今日の情報技術を支えるインターネットのルーティング・プロトコルや検索エンジンなどは、電子工学や通信工学分野とは異なる「数理科学的思考」に強い人材によって開発されてきました。インターネットを中心とするデジタル情報革命の原理とその担い手となる人材育成については、「数学教育の見直し」に糸口があるように思う今日この頃です。